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2021年9月

【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -22-

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「扉を開きます」
 エレベータに乗り、着いた。一連の挙動は感覚的にはそれに近い。
 気密が開かれ、にわかに外界の音が入ってくる。鳥と虫の声。
 扉の向こうに姿を現す緑の間の道。
 畑に咲く白い花。トタン屋根の農器具小屋。
 ひょいと飛び降りる。“ドアが閉じて開いた結果”をぽかんと見ている平沢進を促して下ろす。
「見覚えある?」
 一応尋ねる。
「お、おう」
「良かった」
 なら、船は帰してもよかろう。帆船なので帆を広げて滑空できる。イヤホンでピンを送ると、周囲に人目が無いと確認したか、帆船は文字通り忽然と姿を現し、その帆を広げ、翼のように水平になびかせ、丘の上から風に乗って飛び立った。そして風の届かないところで主推進システムに切り替え、超高速で飛び去る。
 その動きを身体動かして見つめる平沢進は声も出ない。
“思い”が届く。しかも、この足下の大地から。
 おばあちゃんは、この里山を遊びまわる進少年を、夫婦で見守りたかった。
 近所にある複数の大きな桜の木を、肩車して見せたかった。
「ばあちゃん家(ち)、行けばいいかな」
「うん」
 坂道を下りて集落へ。果樹(柿だが、欧州育ちの彼女はそれだという知識がない)が枝を広げる平屋建てのお宅。
 垣根の向こう、縁側にその高齢女性は腰を下ろしていた。
「ばあちゃん」
 進少年の声にゆるりと振り向き、次いで目を見開く。
「進かえ?」
「そう。あー見つかってよかった。親父は?こっちへ向かってると思うけど」
「そちらは?」
 彼女のこと。
「相原姫子と申します。進君のクラスメートです」
「ばあちゃん探すの手伝ってもらったんだぜ」
 すると……祖母殿は温和な表情でゆっくり頷いた。
「ちょ……」
 散々探したのに、ということであろう。声を荒げようとする進少年の左手に彼女はそっと触れ、その先を制した。
「差し出がましいことをいたしまして申し訳ありません。人探しにツテがありまして申し出た次第です。こちら……手がかりとして借用したもの。お返しいたします」
 トランジスタラジオ。

(つづく)

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【理絵子の夜話】サイキックアクション -16-

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 念動を駆使したと知る。“煙”が全て凍り付く。
 次いで雨となって降り注ぐ。
「どうやら、あらゆる物事に挑戦が仕込まれるようだね」
 美砂は言った。意識と目線を感じる。闇の中から自分たちを見ている。
 味方もある。
〈そばにいますぜ〉
 とは件の巨大クモである。
「来る」
 気づいた瞬間後ろに刀抱えた男がいる。以下、実際には刹那の認識であるが、そこで判ったことを細かく書くとこう。まず、男は戦国時代に近隣の山城で戦死した武士の地縛であり、敵方血縁者に取り憑かずにおけない。
 その戦は凄絶な殲滅戦で、城に残ったのは女子供ばかりであったが、皆殺しにされたという。
 応じた仕返しを女子供に。
 以上判った瞬間には“女子供”である彼女らに対し、侍の刀が振り下ろされるところであった。
 対する理絵子の反応は。
 真剣白刃取り。
 侍が驚愕で凝固した刹那、美砂が後を受け継ぐ。刀は見えざる力でぐにゃりとなり、反動で侍がよろけ、理絵子が手を離した瞬間に赤熱して溶解する。
 遠方より“槍”が飛来。
 否、フッと中空で姿を消す。次に現れるまでやはり一瞬であったが、その間にこれから起こる出来事を彼女らは察知した。
 登与がロザリオ片手に口走る魔法のフレーズ。
 そして日に向かってかざした手のひらに槍の先端が弾かれて甲高い音を立てる。こちらは弥生時代の縄張り争いであるらしい。
 そんな者が今後も次々沸くのか?
 否、一時的に“そういうもの”を遮蔽しておくシールドが外れただけ。
 なら、直せば良い。ただ、自分たちが維持する次元の存在ではない。
「キリが無い」
 理絵子は印契を切った。のうまくさまんだばさらだんかん。後は超常の皆様に委ねます。
 爆風の如き物が彼女らを中心に生じて吹き広がる。結界が生成され、封印が成された。
「終わった?おうち帰れる?」
 これは美砂の弁。勿論、そうは簡単に問屋は卸さないというニュアンスを含む。
〈何か来ますぜ〉
 クモが言い、巨体を具象化させ、彼女らの傍らに参じた。
「……アレクサンダー」
「まさか」
 それが正なら、アルヴィトが破れたことを示唆するが。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -21-

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 青い空の下、再度衛星携帯のアンテナを伸ばし、短縮ダイヤルでコール。相手が出た。
「Hi,It's Lemuria.Please pick up me and friend,with use cloaking.」
 あとは待つだけ。1分もかからない。
「あの……」
「暴風が吹くから顔を腕で覆ってください」
 彼女は言いながら、ウェストポーチをごそごそしてワイヤレスイヤホン近似の機械を耳に挿した。
「来ます」
 ほどなく一陣の風が上空より吹き降りて広がり、順次風速が上がって轟轟たる暴風になった。
 園内を歩いていた人々から小さな悲鳴、走り逃げる人も。すいません。
“なにか”が二人の前に舞い降りる。ただその“なにか”は重量と大きさの感覚は有するが、目には見えない。
 風が収まって木の幹に見える部位に、黒い四角い領域が出現した。
 cloaking(クローキング)。いわゆる光学迷彩である。実際には二人の前に空飛ぶ帆船が着陸しており、見えているのは“船がいなければ見えるはず”の光景。
「どうぞ」
 彼女は黒い四角い領域……舷側通路を彼に示した。
「見られたくないので急いで欲しい」
「お、おう」
 持ち前の運動神経を発揮してヒョイと飛び乗る。
 彼女は昇降スロープを出そうとしたが、平沢が腕を伸ばして引っ張り上げてくれた。
「ありがと」
 ウィンクしてみせると彼は見て判るほど頬を赤くし、己の手のひらを見つめた。
「福島県三春町、お願いします。INS使うほどは急いでいません」
 中は白く照明されており、目が慣れてくると、縦に長い6角形断面の空間である。
 スライド式の舷側昇降ドアが閉まり、上昇に伴って下方へ押し付けられるようなG。エレベータでおなじみの感覚だ。
「これ、あの、窓際に浮かんでいた船、だよな」
「そうです。国際救助隊アルゴ・ムーンライト・プロジェクトの所有する飛行帆船です」
 一度、教室の窓際に呼びつけたことがある。ほとんどの生徒はその暴風に逃げ出す姿勢を取って見ていないが、彼は見ていた。
 ちなみに乗せた以上は秘密を前提に多少情報を開示してもいいと思うのだが。
 そんな時間はなさそうだ。
 耳に挿した通信機にピン音。
「間もなく到着します。どこへ?」
「えっと……」
 住所に基づきこの船が下ろせるスペースを検索。
 集落の外れ、アスファルト舗装が途切れたところに小高い緑地あり。
 特にGを感じることもなく、着地に伴う小さな衝撃。

(つづく)

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【理絵子の夜話】サイキックアクション -15-

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「理絵子!」
 アルヴィトが剣を抜き呼ぶ。
「はい!」
「私はこの者に永遠の戦いを挑む。その間に時空の継承を閉じよ。されど我が髪は我が分身としてそなたらに力を与える」
 それは3つの指示と結論を示していた。すなわち相容れぬ価値観は距離を取るより無いのであり、
 アルヴィトはアレクサンダーを異世界へ連れて行こうとしているのであり。
 再びこの戦女と会うことは無い。
「はい!」
 理絵子は応えた。その3つが示すもの“自立せよ”。
「小気味よい。汝らには太陽と月と大地が味方する。以後この“大王”に感化された者が挑んでくるかも知れぬが排除できる。否、排除せよ。征服せんと欲する者を万物を持って排除せよ!」
「お元気で!」
 理絵子はそう応じた。肉の身持たぬ存在に“元気”もへったくれも無いのだが。
「お前もな」
 戦女は大剣構えて強気に笑んで見せ、その剣でアレクサンダーに襲いかかった。
 永遠に戦いを挑み続ければ、アレクサンダーが人間世界、この世に出てくるヒマは無い。
 結果として人間世界に超常の戦いは現出しない。

 示唆一つ。実は聖書に言うハルマゲドンは、遠い過去から永遠の未来まで続くそうした戦いなのではないか。「そのとき、天で戦いが起こった」とは黙示録の一節である。それは永遠の過去の一点であり、天使たちは今もずっと戦っている。

 だから、巨大な超能力で地球生命が脅かされる可能性は低い。
 ただ、そういう“思念”自体は渦巻いていて、人がネガティブな意識を持つと、容易に共振し、通じて“悪意持つ超能力者”は発現しうる。

 自分たちに超能力が備わっているように。それは言わずもがな、自分たちも“戦い続ける”責務を負う。

 錫杖を振るい印契を描き、真言を口にして封印をなす。
「……ドシャコ」
“学校”はにわかに全面がガラスのそれと化し、次いで耳をつんざく音を立てて崩壊を始めた。ガラスの割れるあの音が空間引き裂いて広がり、応じてキラキラとしたガラスの破砕片が煙のように舞い上がる。
 それはそれで危険なのではないか。
 美砂が手のひらを広げた。

(つづく)

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