【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -22-
「扉を開きます」
エレベータに乗り、着いた。一連の挙動は感覚的にはそれに近い。
気密が開かれ、にわかに外界の音が入ってくる。鳥と虫の声。
扉の向こうに姿を現す緑の間の道。
畑に咲く白い花。トタン屋根の農器具小屋。
ひょいと飛び降りる。“ドアが閉じて開いた結果”をぽかんと見ている平沢進を促して下ろす。
「見覚えある?」
一応尋ねる。
「お、おう」
「良かった」
なら、船は帰してもよかろう。帆船なので帆を広げて滑空できる。イヤホンでピンを送ると、周囲に人目が無いと確認したか、帆船は文字通り忽然と姿を現し、その帆を広げ、翼のように水平になびかせ、丘の上から風に乗って飛び立った。そして風の届かないところで主推進システムに切り替え、超高速で飛び去る。
その動きを身体動かして見つめる平沢進は声も出ない。
“思い”が届く。しかも、この足下の大地から。
おばあちゃんは、この里山を遊びまわる進少年を、夫婦で見守りたかった。
近所にある複数の大きな桜の木を、肩車して見せたかった。
「ばあちゃん家(ち)、行けばいいかな」
「うん」
坂道を下りて集落へ。果樹(柿だが、欧州育ちの彼女はそれだという知識がない)が枝を広げる平屋建てのお宅。
垣根の向こう、縁側にその高齢女性は腰を下ろしていた。
「ばあちゃん」
進少年の声にゆるりと振り向き、次いで目を見開く。
「進かえ?」
「そう。あー見つかってよかった。親父は?こっちへ向かってると思うけど」
「そちらは?」
彼女のこと。
「相原姫子と申します。進君のクラスメートです」
「ばあちゃん探すの手伝ってもらったんだぜ」
すると……祖母殿は温和な表情でゆっくり頷いた。
「ちょ……」
散々探したのに、ということであろう。声を荒げようとする進少年の左手に彼女はそっと触れ、その先を制した。
「差し出がましいことをいたしまして申し訳ありません。人探しにツテがありまして申し出た次第です。こちら……手がかりとして借用したもの。お返しいたします」
トランジスタラジオ。
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