【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -23-
電源を入れるとクラシック音楽。すなわちこの地域の放送周波数に合わせたまま。
「ああ、済まないね……」
祖母殿はラジオを傍らにコトリと置いた。
「まぁ、お二人ともここへ来ておくれ」
ラジオを挟んで着座を促される。
「進、ほら」
「お、おう」
彼を促し、率先して座る。
祖母殿が口を開く。
「まずは……いきなり飛び出して済まんな。いたたまれなくなってな。ほんでこご来だはいいけど携帯電話があるわけでなし、ここの電話も止めたでね。連絡しようがなくてよ」
「常磐線から来られたとか」
「海へ行げでねっがらな。新幹線じゃダメだ」
件の原子力発電所は太平洋側にある。当然、避けたくなる。
うぐいすの鳴き声。
「わぁ、きれいな声。初めて聞いた」
彼女の感想に祖母殿は微笑んだ。
「おめさん、進が初めで此処(ごご)で春告げ鳥聞いた時と同じだな」
「え?」
「そうなんですか?」
二人は驚いて祖母殿を見た。春告げ鳥はウグイスの別名。
「ああ、じいさんが庭いじりしてて驚かしちゃなんねがらってハサミ持ったまま固まってよ。人形みだいだって……ああ、これは進じゃねがったか。彰(あきら)か」
平沢進の父君であると彼女は察した。
と、突如祖母殿はしょげたようにうつむいた。
「ごめんな。オレばっか進と遊んでよ。挙句に厄介になってまっでよ。じいさんに申し訳なくてよ」
ラジオに向かって。
「それでここへ……」
「迷惑かけてすまんな。クラスメートちゅうこどは学校抜けて来ただが?しかしめんこい子だなおめさんは」
「人命にかかわる事態かも、という第一報でした。なら、天下御免ですよ……めんこい?」
地面にたたきつける日本の古いカードゲームの“めんこ”なら知っているが。
「か、かわいい、って意味だよ」
説明する平沢進の耳まで真っ赤。
「あら。恐れ入ります」
彼女が応じると、ウグイスが唐突に飛び去った。まるで逃げるように。すなわち。
程なく、クルマが止まった。
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