【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -26-
「お、姫……相原さん大丈夫か」
「貧血起こしちゃって……」
だろう、多分。平沢進の自分に対する心からの心配と、その所以と、対する答えを用意できない自分。ごめんね。
「あら?ちゃんと朝ご飯食べてる?」
祖母殿は優しい表情で彼女を覗き込んだ。
それは祖母殿が前向きかつ生き生きと動き出していることを彼女に教えた。
「おばあさまにお会いできて、安心して血の気が抜けたようです」
貧血の故は多分これが正解。緊張の糸が切れた。
「それは本当に申し訳なかったわ。私ったらどうかしてたと思うの。あなたたちにも謝らないとね。申し訳なかったわ……」
身体を起こせる。
「もう大丈夫です。すみません」
「進と仲良くしていただいてるだけでなく、こんなお手間まで……」
「いえ、それは私が勝手に先走ってかき回してしまっただけの話です」
しかもその勝手は間違いなく自分の思い込み、思い上がり。
「そういえば先ほどグループホームでって言ってましたね」
「ボランティア活動で、子供たちや高齢の方々の施設にお邪魔することがあります。その際、正直申しますが、突然、家に帰ると立ち上がってしまう方もお見えになるので……」
彼女は言いながら両の掌を交互に開いたり閉じたりした。
手のひらを開くたびに小分けパックにされた飴やチョコが出現。
「あらすごい。手品のショーなのね。そしてわたくしも同じように突然出て行ったのではないかと……」
「ええ、失礼な思い込み申し訳ありません」
「いえ構わないわ。至れり尽くせり上げ膳据え膳で“自分で考えて動くこと”がなくなってしまってね。ボーっとしているしかないの。すると本当にボーっとしてくるのね。ああ、これはボケちゃうって思ったわ。でも趣味があるわけでなし、本は全部こっちだしね。それで、これを読んでいたの」
これ……祖母殿は立ち上がり、座卓の上から1冊の書物を取ってきた。
“日記・定敏 平成九年”
「だんな様の……」
「ええ」
手渡されるとそれこそサイコメトリが発動した。強い思いのゆえだと判る。後悔、恐怖、諦念、一転して願いと期待……。
そして6月28日の“ありがとう”という最後の記述。
彼女は日記を開くことなく、ただゆっくりと表紙の文字を指でなぞり、両手で持って祖母殿へ返した。
自分が踏み込む領域ではない。
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