【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -27・終-
「夫は病床にありながら最期まで“いつものお父さん”でいてくれた。でも、それは私を心配させまいとするあの人の愛情で、実際には一人で戦っていたの。私も頑張らなきゃって。で、連絡とる手段がないじゃんって」
祖母殿は微笑んだ。語尾の“じゃん”は東京・神奈川地域特有の言い回しで、それは応じて祖母殿が“東京の人”になりつつあることを示した。
「あーすっきりした」
祖母殿は眦に涙の粒を浮かべて、しかし笑顔で言い、彼女と、彼と、父君を順に見やった。
「ばあちゃん笑ったの初めてかも知れない」
果たして、進少年は呟いた。
幾つかの“答えと変化”を彼女は得ている。
いわゆる徘徊との見立ては完全に間違い。
それから、東京での暮らし方をちゃんと話し合わなかったことも間違い。
「守(まもる)」
「はい」
父君が呼ばれ、答える。
「何もしなくていいから、ただ家にいろ、ってのは、居たたまれないもんだよ。庭いじりしてもいいか」
それを聞いた父君はハッと気づいたように目を見開き、続いて温和な表情を浮かべ、しゃがみこんだ。
「そうだな。何もせずボーッとしてろって考えてみりゃひでーよな。庭木と……」
「ゴミ出し、雑巾がけ、窓ふき、風呂掃除……あんでもやるでよ。そこまでロボットはやっちゃくれめぇ」
そのあたりは“主婦”である母君(嫁)を差し置いて言い出しにくい、という意図もあったようだ。ただ、日本の伝統的な家父長制度、付随する家族関係の習俗を知らない彼女にはピンと来なかったが。
「頼むわ母さん」
「おうよ。それとデイサービス、行くようにするわ。おれが話し相手になってあげられる人もいるかも知れねえからな。時にお嬢ちゃん、姫ちゃんさん」
「はい」
彼女は膝を向けた。
「あんたさんのマジックショーを見てみたいんだが、どこでやっとるかね」
「今度の日曜はですね……」
自分を必要としてくれる人がいる幸せ。彼女は微笑んでウェストポーチから手帳を取り出した。
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