« 2021年11月 | トップページ | 2022年1月 »

2021年12月

【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -01-

←レムリアのお話一覧次へ→

 交差点の脇には、造成時に切り崩さず存置された小山がある。その山裾(?)を巡るように遊歩道が配されており、クルマの来ない道として子供連れや犬の散歩、ジョギング等に重宝がられる。ただし、小山を挟んだ反対側の中学校は通学路にしていない。登下校時に生徒が集中すると混雑するのと、日暮れて以降は暗くなって危険だからだ。
 そんな校則を堂々無視するかのように遊歩道から出てくるブレザー制服男女3名。男子生徒の一人は大柄で首が太く、頭髪は丸刈り。運動部に所属と一目で判る。今一人は小柄で幼い顔立ちであり、男の子にしては色白、と書けるか。そして彼女、短髪と言うには少し伸びたか、小柄な男の子と同じくらいの背丈であり、口を不満そうに尖らせて、小柄な男の子の手にある教科書をのぞき込む。
 小柄な男の子……諏訪(すわ)君を家まで送りがてら、彼から数学の不明箇所の解説を受けるのが日課として定着。
「なんでx-2って思いつくわけ?」
 怒った風に聞こえる口調で彼女は訊いた。背後で大柄な男子生徒、平沢(ひらさわ)が自分も、とばかり何度も頷く。同様に数学の“受講者”であり、二人に対しての“用心棒”。
「8がミソなんだよ。2×2×2じゃん。xとyを掛けた部分があるでしょ。そこと公式を見比べると」
 因数分解。パズルを解くようなものだが、因子……パズルのピースを見分けるのが不得手で挫折する子は多い。
 諏訪君は立ち止まり、教科書の例題を指さし説明した。やや細く、そしてやや高い声色であり、背格好に応じて声変わりはまだかと思わせる。
「オレ適当に公式でやってた」
 比べ野太い声の平沢。喉仏が動く。
「公式でいいんだけど、公式と同じ形をしているところまで持ち込まないと……」
「それが判んねぇ」
 平沢が首を左右に振る。
「判んねぇ」
 彼女も真似してふざけて顔を左右に振る。少女マンガのヒロイン向きと書けるか、まっすぐ見つめてくる黒い瞳の持ち主で、表情は豊かで明るい雰囲気を常に有する。オーラのようだと評する級友もいる。
 声をそろえる二人に諏訪君はため息。
「これからウチ来る?」
 肩越しに親指立てて指さす背後、交差点を挟んだ高層住宅。
 そこに諏訪君は叔父夫婦と暮らしている。彼は喘息で通院を要するが、東北地方太平洋沖地震、伴う震災で福島の病院が機能停止となり、疎開がてらここへ転入。

(つづく)

| | コメント (0)

【理絵子の夜話】禁足の地 -03-

←前へ次へ→

 とは言え。
“そっとしておいて”という先人の思いを踏みにじる“肝試し”が横行している昨今である。東京多摩地区から甲州街道に沿っての周辺は、戦国時代を中心に多くの人死にを伴う悲惨な出来事が発生し、応じて鎮魂の場所・モニュメントが点在する。そこへのイタズラ動画をネットで目にする。感覚の故に我がことのように辛いのであるが、出しゃばる権限はないので我慢している。
 それとも手を出した方がいいのか……いや、やり始めたらキリが無い。
 そして、本当に自分が必要なら、応じた示唆がある。思い上がりのようだがそうと納得出来る。この力、そういうためのものだろう。
 翌日の昼休み。
 彼らは“新たな動画”を見せに来た。
「だから興味ないって」
「ちげーよ発見だよ発見。日本にもストーンヘンジってあったんじゃね?」
 ギャーギャーうるさい動画の向こうで、か細いライトが石を映している。
「順番に石を映しただけじゃ判らないよ。それに信濃大町(しなのおおまち)の上原(わっぱら)遺跡とか岩を円形に並べた遺跡は幾らもあるよ」
 あしらった。
 つもりだったが、以降彼らは毎朝動画を撮ってきたと言っては見せに来るようになった。
 徐々に深夜に、徐々に敷地の奥へと撮影時間と場所が変わって行く。
「黒野~」
 いい加減にせんか、と怒鳴ろうとしたが、目の下にクマを作り、瞳が宙を彷徨っているのは明らかに異常である。
 その目を真っ直ぐ見てやろうとするが、相手の視線が定まらない。
 憑依か。否。
 ちょっとした技。
「いてえっ!」
 手指から足へ抜ける電撃のような痛みと、応じた“バチン”という音が頭の中に響いたはずである。
 これで瞳の揺らぎは戻った。
“目が覚めた”。
「あら静電気ごめんなさい。ただね、キミは何の目的か知らんが動画を撮りに行くことそのものが目的になって寝不足で健康を害していると思うのだよ。それに毎朝ただ真っ暗なだけの動画を見せつけられるのも迷惑だ」
〈どうしたの?〉
 登与がテレパシーで訊いてくる。“何らかエスパー噛ました”ことを検知したのである。
〈中毒か依存症みたいになってる。何か現地で影響受けているかも〉
〈それって私たちが行った方がいいってことじゃ……〉
 やれやれ。
 示唆がある。この“テレパス・ショック”は二度目は効かない。
 示唆。ああ、示唆。

(つづく)

| | コメント (0)

レムリアの次のお話

「急襲」(仮題)

短編、12/29スタート。隔週水曜更新。

お話自体は終わってるんだけどタイトル悩んでますねん。

| | コメント (0)

【理絵子の夜話】禁足の地 -02-

←前へ次へ→

「ぎゃははシカトされた」
「やべー黒野冷てえのたまんねぇ」
 下品な笑い声複数。
 再度本を開こうとすると、すっと傍らに歩いてくる女子あり。
 その知る4名のウチの一人、名を高千穂登与(たかちほとよ)という。隣のクラス。全校公認の霊能者。わけあって超能力でケンカしたが今は仲良し。醸す雰囲気と美貌の故に天使と呼ばれる。
“禁足の地”に関わる話で来てくれたに相違なかった。
「うっわ登与ちゃんだ」
「何?俺らのクラス天国?」
 文字通り下馬評。流れる黒髪と、深く澄んだ瞳と、纏う静謐。
「いいの?」
「ウワサだけって設定だし」
 この声と同時に。
〈男の子達止めなくていいの?放置しておくと悪化して結局出て行かなくちゃならないことになる気が〉
〈そもそもダメとされてるところに入るなって私がわざわざ注意することじゃないし〉
 やりとりされる“心と心の直接の会話”。要はテレパシーで会話とは別に意思疎通をしている。
 登与の思いは、明らかに禁足地へのイタズラ目的を。超常の力持つ自分たちが対処しないのは問題ではないのか。対し、理絵子の判断は、“侵入禁止”が形而上からの警告であるなら、書いてある通りにすれば良いだけの話という単純なもの。
 “ガチでやばい”禁足地なら、応じた怖いことになるのでは、と登与は懸念している。ヤバさを自分たちが感じ取れない、イコール意図的に隠されているレベルのヤバ差かも知れない。それは判る。だが、だとするならば、自分たちの超感覚センサにそういう示唆すら無いというのはあり得ないと思うのだ。
 最も、常時力が作用しているわけではなく、何らかの“スイッチ”なのかも知れないが。
 その時が来れば判る、という奴だ。
〈放置?〉
〈いけないことなら、御沙汰があるでしょ〉
 応じたら、登与は納得したように背を向けて去った。
 ここまで数秒。会話に重ねてなされたとは誰も気付かない。
「あれ?登与ちゃん行っちゃうの?」
「ここ天国じゃないから」
 登与を追う下卑た視線を理絵子は遮った。
 自分に男子生徒達の目が向く、その間に登与の背中は廊下の向こうに消える。
 そして自分も席を立つ。
「邪魔」

(つづく)

| | コメント (0)

【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -27・終-

←前へレムリアのお話一覧へ→

「夫は病床にありながら最期まで“いつものお父さん”でいてくれた。でも、それは私を心配させまいとするあの人の愛情で、実際には一人で戦っていたの。私も頑張らなきゃって。で、連絡とる手段がないじゃんって」
 祖母殿は微笑んだ。語尾の“じゃん”は東京・神奈川地域特有の言い回しで、それは応じて祖母殿が“東京の人”になりつつあることを示した。
「あーすっきりした」
 祖母殿は眦に涙の粒を浮かべて、しかし笑顔で言い、彼女と、彼と、父君を順に見やった。
「ばあちゃん笑ったの初めてかも知れない」
 果たして、進少年は呟いた。
 幾つかの“答えと変化”を彼女は得ている。
 いわゆる徘徊との見立ては完全に間違い。
 それから、東京での暮らし方をちゃんと話し合わなかったことも間違い。
「守(まもる)」
「はい」
 父君が呼ばれ、答える。
「何もしなくていいから、ただ家にいろ、ってのは、居たたまれないもんだよ。庭いじりしてもいいか」
 それを聞いた父君はハッと気づいたように目を見開き、続いて温和な表情を浮かべ、しゃがみこんだ。
「そうだな。何もせずボーッとしてろって考えてみりゃひでーよな。庭木と……」
「ゴミ出し、雑巾がけ、窓ふき、風呂掃除……あんでもやるでよ。そこまでロボットはやっちゃくれめぇ」
 そのあたりは“主婦”である母君(嫁)を差し置いて言い出しにくい、という意図もあったようだ。ただ、日本の伝統的な家父長制度、付随する家族関係の習俗を知らない彼女にはピンと来なかったが。
「頼むわ母さん」
「おうよ。それとデイサービス、行くようにするわ。おれが話し相手になってあげられる人もいるかも知れねえからな。時にお嬢ちゃん、姫ちゃんさん」
「はい」
 彼女は膝を向けた。
「あんたさんのマジックショーを見てみたいんだが、どこでやっとるかね」
「今度の日曜はですね……」
 自分を必要としてくれる人がいる幸せ。彼女は微笑んでウェストポーチから手帳を取り出した。

テレパスの敗北/終

→レムリアのお話一覧へ
→創作物語の館トップへ

| | コメント (0)

« 2021年11月 | トップページ | 2022年1月 »