【理絵子の夜話】禁足の地 -03-
とは言え。
“そっとしておいて”という先人の思いを踏みにじる“肝試し”が横行している昨今である。東京多摩地区から甲州街道に沿っての周辺は、戦国時代を中心に多くの人死にを伴う悲惨な出来事が発生し、応じて鎮魂の場所・モニュメントが点在する。そこへのイタズラ動画をネットで目にする。感覚の故に我がことのように辛いのであるが、出しゃばる権限はないので我慢している。
それとも手を出した方がいいのか……いや、やり始めたらキリが無い。
そして、本当に自分が必要なら、応じた示唆がある。思い上がりのようだがそうと納得出来る。この力、そういうためのものだろう。
翌日の昼休み。
彼らは“新たな動画”を見せに来た。
「だから興味ないって」
「ちげーよ発見だよ発見。日本にもストーンヘンジってあったんじゃね?」
ギャーギャーうるさい動画の向こうで、か細いライトが石を映している。
「順番に石を映しただけじゃ判らないよ。それに信濃大町(しなのおおまち)の上原(わっぱら)遺跡とか岩を円形に並べた遺跡は幾らもあるよ」
あしらった。
つもりだったが、以降彼らは毎朝動画を撮ってきたと言っては見せに来るようになった。
徐々に深夜に、徐々に敷地の奥へと撮影時間と場所が変わって行く。
「黒野~」
いい加減にせんか、と怒鳴ろうとしたが、目の下にクマを作り、瞳が宙を彷徨っているのは明らかに異常である。
その目を真っ直ぐ見てやろうとするが、相手の視線が定まらない。
憑依か。否。
ちょっとした技。
「いてえっ!」
手指から足へ抜ける電撃のような痛みと、応じた“バチン”という音が頭の中に響いたはずである。
これで瞳の揺らぎは戻った。
“目が覚めた”。
「あら静電気ごめんなさい。ただね、キミは何の目的か知らんが動画を撮りに行くことそのものが目的になって寝不足で健康を害していると思うのだよ。それに毎朝ただ真っ暗なだけの動画を見せつけられるのも迷惑だ」
〈どうしたの?〉
登与がテレパシーで訊いてくる。“何らかエスパー噛ました”ことを検知したのである。
〈中毒か依存症みたいになってる。何か現地で影響受けているかも〉
〈それって私たちが行った方がいいってことじゃ……〉
やれやれ。
示唆がある。この“テレパス・ショック”は二度目は効かない。
示唆。ああ、示唆。
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