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【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -01-

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 交差点の脇には、造成時に切り崩さず存置された小山がある。その山裾(?)を巡るように遊歩道が配されており、クルマの来ない道として子供連れや犬の散歩、ジョギング等に重宝がられる。ただし、小山を挟んだ反対側の中学校は通学路にしていない。登下校時に生徒が集中すると混雑するのと、日暮れて以降は暗くなって危険だからだ。
 そんな校則を堂々無視するかのように遊歩道から出てくるブレザー制服男女3名。男子生徒の一人は大柄で首が太く、頭髪は丸刈り。運動部に所属と一目で判る。今一人は小柄で幼い顔立ちであり、男の子にしては色白、と書けるか。そして彼女、短髪と言うには少し伸びたか、小柄な男の子と同じくらいの背丈であり、口を不満そうに尖らせて、小柄な男の子の手にある教科書をのぞき込む。
 小柄な男の子……諏訪(すわ)君を家まで送りがてら、彼から数学の不明箇所の解説を受けるのが日課として定着。
「なんでx-2って思いつくわけ?」
 怒った風に聞こえる口調で彼女は訊いた。背後で大柄な男子生徒、平沢(ひらさわ)が自分も、とばかり何度も頷く。同様に数学の“受講者”であり、二人に対しての“用心棒”。
「8がミソなんだよ。2×2×2じゃん。xとyを掛けた部分があるでしょ。そこと公式を見比べると」
 因数分解。パズルを解くようなものだが、因子……パズルのピースを見分けるのが不得手で挫折する子は多い。
 諏訪君は立ち止まり、教科書の例題を指さし説明した。やや細く、そしてやや高い声色であり、背格好に応じて声変わりはまだかと思わせる。
「オレ適当に公式でやってた」
 比べ野太い声の平沢。喉仏が動く。
「公式でいいんだけど、公式と同じ形をしているところまで持ち込まないと……」
「それが判んねぇ」
 平沢が首を左右に振る。
「判んねぇ」
 彼女も真似してふざけて顔を左右に振る。少女マンガのヒロイン向きと書けるか、まっすぐ見つめてくる黒い瞳の持ち主で、表情は豊かで明るい雰囲気を常に有する。オーラのようだと評する級友もいる。
 声をそろえる二人に諏訪君はため息。
「これからウチ来る?」
 肩越しに親指立てて指さす背後、交差点を挟んだ高層住宅。
 そこに諏訪君は叔父夫婦と暮らしている。彼は喘息で通院を要するが、東北地方太平洋沖地震、伴う震災で福島の病院が機能停止となり、疎開がてらここへ転入。

(つづく)

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