1回、飛ばします
私事でじたばたしており、1回、更新を繰り延べます。
彼女は我に返ったように真顔を見せる。そんな所へ押しかけて埃舞い上げるつもりはない。
「まぁまずは自分で考えるから」
「そ、そうだよ頼ってちゃ勉強にならない」
二人で意見一致と書きたいが、後者平沢の発言には底意がある。彼女はそれを捉えているが、仕方の無いことと理解できている。
「そう?じゃ……いつもありがとう」
信号の変わるタイミング、諏訪君が頭を下げる。送迎の意図は“途中で何かあった時に即応”するため。
応じたスキルは彼女が保有。
「いやいやこちらこそ。じゃぁね」
手を振って分かれる。その一連の仕草を見下ろす平沢。
要は彼女に好意を持っている。底意というのはこの後二人きりの時間が自動的に訪れること。ただ、悲しいかな彼女には既にフィアンセと呼べる存在がいる。
「行きたかった?」
彼女は平沢の目を見上げて尋ねた。自信と安定感がもたらす強い瞳。原宿で怪しげなスカウトをあしらうのも最近は慣れた。
「いや、だって呼吸機械とかあるんだろ?汚れた(けがれた)奴が行ったらいけねーよ」
彼は慌てた風に目を逸らして応じると、逸らしがてらに英語のワークブックを取り出した。復路は彼女が彼に英語の補講。
再び“通学路でない”小山の脇、遊歩道へ入って行く。彼らがここを通るのは、喘息持ちの諏訪君は少しでも車道を避けた方がいいだろうとの考えによる。遊歩道の反対側は住宅が並ぶが、いずれも遊歩道に対して高い塀を巡らせており、遊歩道に人目はないのだ。それが“暗くなると危険”の側面を与える。
行く手にネコ一匹。
いつもいる茶トラで耳の一部がカットされている。いわゆる“地域ネコ”という奴だ。
にゃぁ、とひと鳴きして。
いつもならすり寄ってきて首の後ろを擦り付けてくるのだが、今日はその場でピタリと止まった。
いつもと違う。
「待って」
「え」
彼女は平沢の身体の前に腕を伸ばし、進行を制した。
自分を囲繞していた平沢の好意と目線……“ラブラブ光線”が、自分の緊張した声によって解除され、同時に自分たちに向けられた四方からの敵意を受け取る。
待ち伏せである。多分に攻撃的な。
“応じた示唆”来たのだ。よそのクラスである登与を巻き込んでしまった。
〈そんなことない。そういう思し召しでしょ。協力するよ〉
〈ありがとう〉
仕方ない。
さて気がつくとしょんぼりがっかりした目の下クマ男が目の前におる。
「イヤだという女の子に強要するのは感心出来ません。ついでに言っておくとスピリチュアルで本当にやばい奴は本人も気づかないうちに異常な人になり果てます。肝試し程度で何日も徹夜する行為は異常だと私は思いますが?」
「ごめん」
しょんぼりとうなだれた、小さな声を聞きながら、理絵子は彼に背を向け、教室を出た。
そこには登与が黒髪なびかせて自分を見ている。彼女の髪の毛は風もないのになびいたり漂ったりするのだが、それはオーラライトの圧力だと思うが、たたずまいが自然すぎるせいか、不自然さに気づく級友は他にいない。
理絵子は上を指さした。屋上へ行こうという意味。その地は校舎から川に沿って西南西へ2キロ少々。見て見えない距離ではない。
校内一、二を争う“美少女”が連れだって歩いておるので目立つことこの上ないが、それでも二人は能力の故に一瞬途切れた視線をくぐって3階へ、そして普段は出入り出来ない屋上へ向かう薄暗い階段へ。
立ち入り禁止の札が下がるプラスチックの鎖をくぐる。舞い立つ埃、おびただしい翅虫の死骸。
「鍵が……」
掛かっているんじゃないのか。登与の当然の疑問。
「開くから」
その通り当然、普段は施錠されて出入り不可。が、理絵子はノブを握って、回した。
ガリガリと金属同士が削れる音を伴ったが、それ以外ドアは無防備なまでに開いた。
「PK?」
「じゃないんだけど、必要なときに開くようになってる。開いたので必要と言うこと」
PK。念動力を意味するサイコ・キネシス(psychokinesis)の略称。登与は大いに驚いているが、理絵子は超感覚系だけを有している。ただ、必要な場合、施錠されている鍵は開く。
「そういう守護者が付いて下さっているものと」
「ああ」
納得の意を受け取る。回したドアノブを、少女の非力で腰を落として踏ん張り押すと、ギイ、と錆びた金属音を発し、ドアが開いた。
わずかに吹く5月の風。
真昼の陽光とヒバリの鳴き声。
「気持ちいい」
「こりゃ立ち入り禁止にされるわ。サボりたくなるもん」
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