【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -02-
彼女は我に返ったように真顔を見せる。そんな所へ押しかけて埃舞い上げるつもりはない。
「まぁまずは自分で考えるから」
「そ、そうだよ頼ってちゃ勉強にならない」
二人で意見一致と書きたいが、後者平沢の発言には底意がある。彼女はそれを捉えているが、仕方の無いことと理解できている。
「そう?じゃ……いつもありがとう」
信号の変わるタイミング、諏訪君が頭を下げる。送迎の意図は“途中で何かあった時に即応”するため。
応じたスキルは彼女が保有。
「いやいやこちらこそ。じゃぁね」
手を振って分かれる。その一連の仕草を見下ろす平沢。
要は彼女に好意を持っている。底意というのはこの後二人きりの時間が自動的に訪れること。ただ、悲しいかな彼女には既にフィアンセと呼べる存在がいる。
「行きたかった?」
彼女は平沢の目を見上げて尋ねた。自信と安定感がもたらす強い瞳。原宿で怪しげなスカウトをあしらうのも最近は慣れた。
「いや、だって呼吸機械とかあるんだろ?汚れた(けがれた)奴が行ったらいけねーよ」
彼は慌てた風に目を逸らして応じると、逸らしがてらに英語のワークブックを取り出した。復路は彼女が彼に英語の補講。
再び“通学路でない”小山の脇、遊歩道へ入って行く。彼らがここを通るのは、喘息持ちの諏訪君は少しでも車道を避けた方がいいだろうとの考えによる。遊歩道の反対側は住宅が並ぶが、いずれも遊歩道に対して高い塀を巡らせており、遊歩道に人目はないのだ。それが“暗くなると危険”の側面を与える。
行く手にネコ一匹。
いつもいる茶トラで耳の一部がカットされている。いわゆる“地域ネコ”という奴だ。
にゃぁ、とひと鳴きして。
いつもならすり寄ってきて首の後ろを擦り付けてくるのだが、今日はその場でピタリと止まった。
いつもと違う。
「待って」
「え」
彼女は平沢の身体の前に腕を伸ばし、進行を制した。
自分を囲繞していた平沢の好意と目線……“ラブラブ光線”が、自分の緊張した声によって解除され、同時に自分たちに向けられた四方からの敵意を受け取る。
待ち伏せである。多分に攻撃的な。
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