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2022年2月

【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -04-

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 男3、女1。彼女はバット片手に女の方を向き、対し平沢は同じくバット片手に男らの方を向く。この時点でスプレー男はよろよろしながら咳き込んで鼻水ダラダラ。植え込みに倒れ込んだ男の片方は植え込みの上に身体が完全に乗ってしまい、足は地面についておらず、手を突いて立とうにも枝の間を突き抜けるばかりで、さながらデタラメなクロールを空中で泳いでいるよう。反対側の植え込み男は釣り糸が自らとツツジの枝に絡んでしまい身動き取れず。結果両方から「くそっくそっ」。
「説明があってもいいんじゃないですかね」
 彼女は携帯端末で撮影し続ける女の方を見て言った。
「(意図したこと形を成さず)」
 ボソボソッと彼女が呟いたそれは日本語に直すとそんな意味になる。
 平沢が気付いたようで一瞬彼女に目を向けたが、彼女は、彼が気付いたことには、気付かないふりをした。
 程なく、女の携帯端末からブーという雑音が生じ、煙を噴き出した。
「うわっ!」
 女が放り投げると、ぼん、と小爆発を起こして液晶画面がはじけ飛び、赤い炎に包まれる。電池の主材料リチウムの燃焼。
 肉付きの悪い、顔色の悪い、目つきの悪い、けばけばしい服装の女が燃える端末を見つめる。姉御ぶった感じだが、ずばり同年代である。
「お前ジャンクフードしか食ってないだろ。生理が止まって死ぬぞ」
 彼女は挑発してみる。
「るせえ……ちっ」
 女は我々に食ってかかりたいのだが、こちらにはバットがある。しかも携帯端末は燃え溶けドロドロ。そこを乗り越えて暴力に出る気力は無い。ハッタリ人間の裏返し。
「坂本瑠菜(さかもとるな)……ちゃん14歳。おやおや川向こうの隣の市からわざわざお越しですかい」
 これに女は目を剥いた。今、彼女の右手には生徒手帳が4冊、トランプのカードのように広げられている。
「話してくれないならこっちからどんどん喋るよ」
「いや、やめてくれ」
 ぼそっと、呟くように制したのは平沢進であった。
 彼の手がギュッと強く拳を握り、大きな体躯全体に萎縮が働いて縮こまろうとしている。
 彼にとって、とても辛いことなのだと彼女は知った。ただ同時に。
「こいつ、小学校の時、俺の隣の席で、脇毛野郎とか体臭食堂とか、さんざん言ってくれてさ。調子に乗って一緒にちょっかい掛けてくるようになったのが、この3人なんだよ。俺、野球で有名な私立中へ進学の話があったのに、こいつらの挑発に負けて殴っちまった」
「人の進学を潰した不良バカか」
 それで彼は人目を避けるように隣の市からこの住宅街にある中古住宅に引っ越し、同じ中学に行かないようにしたのだ、と彼は話した。

(つづく)

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【理絵子の夜話】禁足の地 -06-

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“鳥居の配置”に関するセオリーに従っていないあたり尋常ではないことを示すが。
「人目もあるからこっちでしょ」
 川沿い遊歩道をしばらく行くと陵墓の柵は円形の敷地に応じてカーブを描いて北へ分かれ、代わりに未開発の風情漂わせる草ボウボウ。茅を中心とした湿地に生える背の高い草本がびっしり。
 足下に腐ったカンバンの残骸。トタン板に残ったわずかなペンキは“マムシに注意”。
「あいつら良く嚙まれなかったね」
 登与がつぶやく。理絵子は草ボウボウを見渡した。
 動物、昆虫がいない。
 跳ねるバッタもさえずるヒバリもいない。
 じゃぁ霊的な気配充満かというとそうでもない。
「強固な結界?」
「違うと思う。もう少し行ってみましょう」
 歩を進めると遊歩道の幅は次第に狭まり、応じて両側には草本がそそり立つ壁のように迫る。足下地面は次第に湿り気を帯び、雨上がりの山道のように泥濘んで靴が汚れる。ここを遊歩道として利用する人はそれなりにあるのだろうが、こんな泥濘みに出くわしたら引き返すであろう。だから進むほど狭くなるのだ。
 そして。
 泥濘は靴を下ろすと水がしみ出すほどになり、ついに遊歩道を横切る小さな流れにぶつかる。黒い通学靴が泥まみれ。
 流れは視界右方、北から来ており、左方、南へ向かって流れて行く。その北から向かって来る流れの左右に、柵が立ち並んでいる。といっても、木の板が“適当”と言わんばかりに間隔も不均等で斜めになっているものもあるが。
 ただその、柵の間の泥や草本は新しく踏み固められた跡。
「ここから奥へ」
「だね」
「何これ油膜?何か上流に汚いもの捨ててる?」
 登与が指さす。流れの中に虹色にギラギラ光るものが混じっている。
「鉄バクテリアでしょ。湧き水に鉄分豊富だと繁殖するんだって。昔の人は金気水(かなけみず)って呼んで鉄鉱脈の目安にしてた」
「へぇ!」
 驚く登与の表情には見開かれた瞳もあって、幼さが垣間見える。さておき、このバクテリアたちは様々な情報を与えてくれる。鉄分を豊富に含んだ地下水が沸いていること。大和王権の時代、丈夫な農具・武具を得られる鉄は最高の産物だった。応じて鉄鉱脈を神聖化した可能性はある。そして鉄分の故に動物は生息しづらい。
 鉄の看板が腐るのも道理。本来なら強固に柵をしたいが木の柵にせざるを得ず、それは簡単に蹴破られ、泥濘の中に道があることを目立たせてしまった。結果、泥濘に負けずここまで歩いて来さえすれば、後は流れに沿って進むだけで“核心”にたどり着ける。
「見て」
 理絵子は気づいて足下を指し示した。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -03-

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“敵意”は基本向けられた瞬間にそれと気づく。それを遮断するほど“彼の気持ち”が強いということか。
 まぁどうでもいい。なるほど通学路には不向きかも知れぬ。
 ただ、自分は今、“女子一人”ではない。それこそ、そんな事態に対応したいと、立候補してくれたのが他ならぬ平沢であるが。
「お前の彼女か?ヒラ公」
 敵意むき出しの女の声が後ろから掛かるが、それは罠。
 振り返る……フリをして腰をかがめ、同じく振り返ろうとする平沢の袖を引っ張って制する。ちなみに、彼女のその動作は、飛び道具、有り体に言えば銃弾が飛んでくる場所にいるからこそ身についた動作。
 行く手、左側のツツジの植え込みから躍り出てくる男1名。
 何か持っている……催涙スプレー。
 肩掛けしていた通学カバンを彼女は投げつけるべく外しに掛かる。
 この間に平沢は彼女の手指と物音によって目線を後ろに向けることなく、出てきた男に気付いた。
 その瞬間の一瞬の震えを彼女は見逃さない。彼の恐怖と逃避。
 否。
 アドレナリンの分泌、恐怖を超える勇猛、彼女より素早い肩掛けカバンを外すアクション。
 平沢がカバンを投げる。男がスプレーの噴霧ボタンを押す。
 噴霧されたスプレーはカバンに跳ね返され、噴霧した本人に噴き掛かった。
 更にカバンがスプレー男に命中する。
 プシュッ、ドカッ、および「がっ!」という声にならない叫び。これで数秒。
 スプレー男はもんどりを打つ。固く鈍い音が聞こえ、頭部を舗道に打ち付けたことが知れる。
 平沢進は“仕事”をした自らのカバンを取り返す。
 そして、カバンの端からはみ出しているバットに手を伸ばし、グリップをつかんで引き抜く。
 それを見たスプレー男の表情が驚愕を形成し、もうろうとしているであろうかぶりを振って舗道に手を突き、起き上がろうとする。
「そんなことしちゃっていいのかな?ススムクン?」
 背後の女。バットで殴ると警察沙汰にするぞという意味であろう。
 そこで、彼女がもう一本のバットを手にした。
「私がやりゃいいか?」
 肩に担いで振り返ると女はスマートホンのカメラをこちらに向けている。暴力事件に仕立てようという腹づもりらしい。
 示唆。罠が実行される。足下。
 釣り糸を引っ張って自分たちを転ばせようという策と知る。それら一連の動きは自分たちの行動パターンを把握しており、待ち伏せしてどうにかしようとする強い意志を感じる。
 釣り糸を上からバットの先でガンと押さえつける。植え込みから釣り糸を引っ張っていた男達が想定外の荷重に逆にバランスを崩して植え込みに倒れ込む。

(つづく)

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【理絵子の夜話】禁足の地 -05-

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 二人は屋上を歩き、最も西寄りの柵から眺める。
 眺める。多摩丘陵から関東山地への境目であり、なだらかが急峻に変わる。高層化が進む都心方向と異なり、家並みに一部畑地が混じる。
 そんな家並みと畑地の一角、一見すると未造成の森。
「結界があるんじゃ?」
「だとしても見せてくれないことはないはず」
 人の目にズームアップの機能はない。ただ、一点を集中して見ていると応じて視界中央の解像度が上がり細かく見えるようになり、反対にそれ以外は視界から外れる。
 のみならず。
 彼女の場合遠隔視能力、千里眼が働く。それは距離に関わりなく合焦し、立体構造を与える。その筋の用語でテレ・ビジョンと呼ぶが、言わずもがなテレビの語源である。
「祠……石畳……というか板状の石を一定間隔で並べて全体的に円を描く。円の中はすり鉢状に落ち窪んでいて、真ん中には沼があるみたい。でも、植物の密度が凄くてそれ以上見えない」
 気づく。5月であり緑萌えるただ中であるというのに“生き物”の気配がそこにはない。
 なお、以上見取った光景と印象はそのままテレパスで登与に転送。
「あなたが気づいたことは?」
「静か……動かない。とにかく動かない」
「だよね」
「あと、夜は危険」
 それも示唆だと理絵子は判断した。
“行くなら陽のある内に行った方が良い”
「昼から幽霊は出ないでしょ」
「というか、霊的なものではないような」
 またも示唆だ。そして“示唆を与えてくれる”存在自体は霊的なものであろう。この示唆の連続は、要するに自分たちが対応すべき事象であるという確信以外の何物でも無い。
 放課後。
 二人は待ち合わせて通学路を外れる。普段一緒に帰る友達はいるが、「相談される」事態はままある立ち位置なので、今日はダメの言い訳には困らない。
 北へ延びる広い道を横断し、川沿い道を少し歩くと、陵墓の入り口。一般向け公開は16時までなので門扉は既に閉まっており、詰め所脇に警官の姿。
 見られるが笑顔で返す。笑顔で返されておしまい。
 川沿い道で舗装されているのはここまで。クルマ進入防止のポールが2本あり、その向こうに細い道が続く。陵墓は堤防ぎりぎりまで敷地にしているが、堤防の上はそのまま遊歩道になっている。陵墓との仕切りは背の高い鉄柵とその上に有刺鉄線。監視カメラも見える。
「あいつらどこから。この柵ってぐるっと囲ってるでしょ。まさか真っ当に鳥居の所突破したとか」
 禁足の地を示した看板と神域であることを示す鳥居は、これより陵墓を挟んだ北側にある。すなわちこちら川沿いは「正当な入り口」とは逆に当たる。

(つづく)

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