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【理絵子の夜話】禁足の地 -06-

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“鳥居の配置”に関するセオリーに従っていないあたり尋常ではないことを示すが。
「人目もあるからこっちでしょ」
 川沿い遊歩道をしばらく行くと陵墓の柵は円形の敷地に応じてカーブを描いて北へ分かれ、代わりに未開発の風情漂わせる草ボウボウ。茅を中心とした湿地に生える背の高い草本がびっしり。
 足下に腐ったカンバンの残骸。トタン板に残ったわずかなペンキは“マムシに注意”。
「あいつら良く嚙まれなかったね」
 登与がつぶやく。理絵子は草ボウボウを見渡した。
 動物、昆虫がいない。
 跳ねるバッタもさえずるヒバリもいない。
 じゃぁ霊的な気配充満かというとそうでもない。
「強固な結界?」
「違うと思う。もう少し行ってみましょう」
 歩を進めると遊歩道の幅は次第に狭まり、応じて両側には草本がそそり立つ壁のように迫る。足下地面は次第に湿り気を帯び、雨上がりの山道のように泥濘んで靴が汚れる。ここを遊歩道として利用する人はそれなりにあるのだろうが、こんな泥濘みに出くわしたら引き返すであろう。だから進むほど狭くなるのだ。
 そして。
 泥濘は靴を下ろすと水がしみ出すほどになり、ついに遊歩道を横切る小さな流れにぶつかる。黒い通学靴が泥まみれ。
 流れは視界右方、北から来ており、左方、南へ向かって流れて行く。その北から向かって来る流れの左右に、柵が立ち並んでいる。といっても、木の板が“適当”と言わんばかりに間隔も不均等で斜めになっているものもあるが。
 ただその、柵の間の泥や草本は新しく踏み固められた跡。
「ここから奥へ」
「だね」
「何これ油膜?何か上流に汚いもの捨ててる?」
 登与が指さす。流れの中に虹色にギラギラ光るものが混じっている。
「鉄バクテリアでしょ。湧き水に鉄分豊富だと繁殖するんだって。昔の人は金気水(かなけみず)って呼んで鉄鉱脈の目安にしてた」
「へぇ!」
 驚く登与の表情には見開かれた瞳もあって、幼さが垣間見える。さておき、このバクテリアたちは様々な情報を与えてくれる。鉄分を豊富に含んだ地下水が沸いていること。大和王権の時代、丈夫な農具・武具を得られる鉄は最高の産物だった。応じて鉄鉱脈を神聖化した可能性はある。そして鉄分の故に動物は生息しづらい。
 鉄の看板が腐るのも道理。本来なら強固に柵をしたいが木の柵にせざるを得ず、それは簡単に蹴破られ、泥濘の中に道があることを目立たせてしまった。結果、泥濘に負けずここまで歩いて来さえすれば、後は流れに沿って進むだけで“核心”にたどり着ける。
「見て」
 理絵子は気づいて足下を指し示した。

(つづく)

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