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【理絵子の夜話】禁足の地 -05-

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 二人は屋上を歩き、最も西寄りの柵から眺める。
 眺める。多摩丘陵から関東山地への境目であり、なだらかが急峻に変わる。高層化が進む都心方向と異なり、家並みに一部畑地が混じる。
 そんな家並みと畑地の一角、一見すると未造成の森。
「結界があるんじゃ?」
「だとしても見せてくれないことはないはず」
 人の目にズームアップの機能はない。ただ、一点を集中して見ていると応じて視界中央の解像度が上がり細かく見えるようになり、反対にそれ以外は視界から外れる。
 のみならず。
 彼女の場合遠隔視能力、千里眼が働く。それは距離に関わりなく合焦し、立体構造を与える。その筋の用語でテレ・ビジョンと呼ぶが、言わずもがなテレビの語源である。
「祠……石畳……というか板状の石を一定間隔で並べて全体的に円を描く。円の中はすり鉢状に落ち窪んでいて、真ん中には沼があるみたい。でも、植物の密度が凄くてそれ以上見えない」
 気づく。5月であり緑萌えるただ中であるというのに“生き物”の気配がそこにはない。
 なお、以上見取った光景と印象はそのままテレパスで登与に転送。
「あなたが気づいたことは?」
「静か……動かない。とにかく動かない」
「だよね」
「あと、夜は危険」
 それも示唆だと理絵子は判断した。
“行くなら陽のある内に行った方が良い”
「昼から幽霊は出ないでしょ」
「というか、霊的なものではないような」
 またも示唆だ。そして“示唆を与えてくれる”存在自体は霊的なものであろう。この示唆の連続は、要するに自分たちが対応すべき事象であるという確信以外の何物でも無い。
 放課後。
 二人は待ち合わせて通学路を外れる。普段一緒に帰る友達はいるが、「相談される」事態はままある立ち位置なので、今日はダメの言い訳には困らない。
 北へ延びる広い道を横断し、川沿い道を少し歩くと、陵墓の入り口。一般向け公開は16時までなので門扉は既に閉まっており、詰め所脇に警官の姿。
 見られるが笑顔で返す。笑顔で返されておしまい。
 川沿い道で舗装されているのはここまで。クルマ進入防止のポールが2本あり、その向こうに細い道が続く。陵墓は堤防ぎりぎりまで敷地にしているが、堤防の上はそのまま遊歩道になっている。陵墓との仕切りは背の高い鉄柵とその上に有刺鉄線。監視カメラも見える。
「あいつらどこから。この柵ってぐるっと囲ってるでしょ。まさか真っ当に鳥居の所突破したとか」
 禁足の地を示した看板と神域であることを示す鳥居は、これより陵墓を挟んだ北側にある。すなわちこちら川沿いは「正当な入り口」とは逆に当たる。

(つづく)

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