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【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -04-

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 男3、女1。彼女はバット片手に女の方を向き、対し平沢は同じくバット片手に男らの方を向く。この時点でスプレー男はよろよろしながら咳き込んで鼻水ダラダラ。植え込みに倒れ込んだ男の片方は植え込みの上に身体が完全に乗ってしまい、足は地面についておらず、手を突いて立とうにも枝の間を突き抜けるばかりで、さながらデタラメなクロールを空中で泳いでいるよう。反対側の植え込み男は釣り糸が自らとツツジの枝に絡んでしまい身動き取れず。結果両方から「くそっくそっ」。
「説明があってもいいんじゃないですかね」
 彼女は携帯端末で撮影し続ける女の方を見て言った。
「(意図したこと形を成さず)」
 ボソボソッと彼女が呟いたそれは日本語に直すとそんな意味になる。
 平沢が気付いたようで一瞬彼女に目を向けたが、彼女は、彼が気付いたことには、気付かないふりをした。
 程なく、女の携帯端末からブーという雑音が生じ、煙を噴き出した。
「うわっ!」
 女が放り投げると、ぼん、と小爆発を起こして液晶画面がはじけ飛び、赤い炎に包まれる。電池の主材料リチウムの燃焼。
 肉付きの悪い、顔色の悪い、目つきの悪い、けばけばしい服装の女が燃える端末を見つめる。姉御ぶった感じだが、ずばり同年代である。
「お前ジャンクフードしか食ってないだろ。生理が止まって死ぬぞ」
 彼女は挑発してみる。
「るせえ……ちっ」
 女は我々に食ってかかりたいのだが、こちらにはバットがある。しかも携帯端末は燃え溶けドロドロ。そこを乗り越えて暴力に出る気力は無い。ハッタリ人間の裏返し。
「坂本瑠菜(さかもとるな)……ちゃん14歳。おやおや川向こうの隣の市からわざわざお越しですかい」
 これに女は目を剥いた。今、彼女の右手には生徒手帳が4冊、トランプのカードのように広げられている。
「話してくれないならこっちからどんどん喋るよ」
「いや、やめてくれ」
 ぼそっと、呟くように制したのは平沢進であった。
 彼の手がギュッと強く拳を握り、大きな体躯全体に萎縮が働いて縮こまろうとしている。
 彼にとって、とても辛いことなのだと彼女は知った。ただ同時に。
「こいつ、小学校の時、俺の隣の席で、脇毛野郎とか体臭食堂とか、さんざん言ってくれてさ。調子に乗って一緒にちょっかい掛けてくるようになったのが、この3人なんだよ。俺、野球で有名な私立中へ進学の話があったのに、こいつらの挑発に負けて殴っちまった」
「人の進学を潰した不良バカか」
 それで彼は人目を避けるように隣の市からこの住宅街にある中古住宅に引っ越し、同じ中学に行かないようにしたのだ、と彼は話した。

(つづく)

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