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2022年3月

【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -06-

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 男達は戦意喪失と言って良かった。彼女はゆっくり、瑠菜に向き直った。
「何なんだ……お前……」
 対して、瑠菜から出てきた台詞がそれ。目玉が小刻みに揺れ動いており、不気味に近い恐怖心を抱いていると判る。まぁ、得体が知れないだろうとは思う。
「それはこっちの台詞だ。道すがらいきなりカツアゲとかバカだろ。んで?しょんべん漏らしの代わりにお前がやんのか?ああ、獲物が無いと不公平だな」
 彼女は担いでいたバットを舗道に転がした。金属バットなりのカンという音。
「私らをどうにかしたいんだろう。だったらそれ持って掛かって来やがれ。相手してやる」
 と、足下に味方。
 さっきのネコ。毛を逆立ててフーと威嚇。
「タンパク質が不足して手足も細いお前にバット振り回せると思わんがな」
 バサバサと羽音を立ててカラスが数羽舞い降りてくる。近くの木に止まって瑠菜を凝視。交互にアーアーと鳴き声を響かせる。
 そして。
 ツツジの植え込みからのそのそ這い出してきたヒキガエル。

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 これが決定打になった。彼女はカエルが苦手であり、手のひらサイズのイボイボカエルは見ただけでノックアウトと判じた。
「あ……は……あ……」
 過呼吸状態に陥ってしまう。もう動くことが出来ないのは明白だった。
 しょんべん漏らし2になる前に、謝罪と二度と接近しないことの念書でも取ってやろうかと思ったけど面倒くさくなった。
 彼女は瑠菜にツカツカ歩み寄ると中指でその額を強く弾いた。“デコピン”という奴だ。ただし。
 食らった瑠菜は急にキョトンとなった。まるで夢から覚めたように。
「あれ?あたし……」
「これ見て気絶しちゃったんだよ」
 彼女はまるで今初めて出会ったかのようにヒキガエルを指さした。当のカエルは“めんどうくさい”とでも言いたげに長い舌で自らの目玉をペロペロ。
「ひっ……」
 またぞろ過呼吸を起こしそうなので。
「見てるからここから逃げなさい」
「あ、はい。すいません」
「そして二度とここへ来ない」
「来ません」
 瑠菜は数歩下がり、きびすを返し、サイズの合ってないヒールの靴でパタパタ走り出して去った。
「おい……」
 呼び止めようとして何も出来ない男達。

(つづく)

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【理絵子の夜話】禁足の地 -08-

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 言ってから自問する。あるのか、そんなことが。
「美しい湖なのに魚一匹いない。毒水だから、ってよくあるけど」
 登与の言葉に連想したのは、湖でないなら。
「瘴気」
「まさか……え?」
 瘴気。毒のある空気。疫病の元と考えられてきた。細菌やウィルスが発見される前の迷信。
 禁足地とした理由には充分だが。
「大涌谷みたいな火山ガスとか」
 登与が言った。そういう、“自然事象”で生命禁忌は、それこそ大涌谷だと草一つ生えぬ禿げ山が硫黄で黄色くなっている。
 ここは植物は豊富だが動物がいない。
 植物は可。動物は不可。あるのかそんな毒。
 金気水はその一種であるかも知れぬ。しかし水に入らぬ虫一匹感じないのは解せぬ。
 やはり気体の毒か。動物には危険な気体。
 スマホを取り出す。検索する。気体。致死量……。
「二酸化炭素!」
「あっ!」
 知見の扉を開く。ニオス湖の惨事。火山活動で濃密な二酸化炭素が噴出して山裾に沿って流れ下り、集落に滞留して大量の犠牲者を出した。マズク。アフリカで観測される窪地(あち)に二酸化炭素が高濃度に溜まった死の穴。
 ここは窪地だ。
 全てのパズルのピースが埋まった。
 その時。
「あれ?黒野じゃん。高千穂も。やっぱり……」
 鳥居の無い“非正規”のルートから入ったと見られる彼らが歩いてくる。禁足地……窪地を囲う境界線であろう列石に沿って歩けば当然ここへ出る。
 ニコニコしながら、ニヤニヤしながらか、彼らが自分たちに小型のビデオカメラを向けた更にその時。
 知見を映したスマホの画面に文字が躍り、大きな電子音。
 緊急地震速報。
「お?これは面白え……」
“良い動画のネタ”になると思ったか、嬉しそうな彼らに比して。
 何が起こるか理絵子は判じた。揺れ動く大地がポンプのように作用し、
 下から“瘴気”が吹きだしてくる。
 理絵子は唇をキッと結んで彼らを見た。
「バカ!来るな!走れ。全速力で逃げ出せここから!」
 声を限りに彼達に叫ぶ。が、その彼らはキョトン。
「は?」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -05-

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 ただ、野球の試合などを通じて、彼がここに通っていることが露見したのだろう。
 彼女は下卑た笑いを作ると、
「そんで悪さのあげくに小遣い無くなって、昔のアイツを揺すってカツアゲたろかってか?あ?るなちゃんよ。月って名前のくせにゲスだなお前。月に月のもの出ないように仕置きしてやるか?股から手ぇ突っ込んで子宮引きずり出すぞゲロ女」
 マフィアに囲われていた孤児とか付き合いがあるので、幾らでも不良言葉は出てくる。
 すると。
「黙って聞いてりゃ随分とイキってんなお前」
 血の気が上がってきたのは植え込みに倒れ込んでガサガサしていた男。ジタバタしたあげく、ようやく舗道に片手が付いたのであるが。
 彼女はアニメで習った蔑みの目線、ジト目という奴を上からくれてやると。
「私殴る?いいけどそこから1センチでも動くとお前の目の前とお前の身体の周りにワンサといるドクガの毛虫がお前を襲うよ」
「な……」
 何か言い返そうとして、視界眼前をうごめく多数の毛虫に気付いたらしい。男はツツジを“かき混ぜた”状態になり、折から繁殖していたドクガの幼虫達が集まってしまった。
 すると。
「このクソ!」
 釣り糸を引いていたもう反対側の男である。勢いよく立ち上がろうとし、そのまま足をもつれさせて倒れ込む。
 足首に絡まる釣り糸。
「いてぇクソ……」
 力任せに足を引っ張るが釣り糸が皮膚に食い込んでギャーと言う羽目になる。
「クソクソうるせぇんだよ。そんなに出したきゃそこのスーパーでトイレ借りてして来い。行ければだけどな」
 そこでゲホゲホ咳き込みながらようやく立ち上がれそうなのがスプレー男。
 彼女は振り向くなり指さしてゲラゲラ笑ってやった。嘲笑という奴だ。
「鼻水鼻くそ涙ボロボロ。ついでに言うと小便漏れてるぜ。イキって結局馬鹿なガキそのものじゃねぇか。そんなんで私に殴りかかろうなんざ100年早い。おととい来やがれ」
 さんざん言って、バットを振り上げる。
「うわ……」
 とはいえ、そこまでで良かった。男は本当に殴られると思ったらしく、小便を漏らしてしまった。ズボンに広がる黒い染み。
 そこで。
「おら!どうしたオシッコ漏らし!」
 一拍置いて。

「掛かって来いや!」

 彼女はその場の誰もが度肝を抜かれて目を剥く大音声を張り上げた。オペラ歌手と同じ発声法で骨を共鳴させ、体内空間全てを使って増幅放出させる術を有する。

(つづく)

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【理絵子の夜話】禁足の地 -07-

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 それは一見、鉄さびで赤くなった石がゴロゴロしているようだが。
 それらの石は、頂部が平坦で、一定間隔を置いて並んでいる。
 飛び石として人為的に配置された。
「行きましょう」
「うん」
 飛び石を丁寧にたどって行く。これ以上靴が濡れるのはイヤだという部分もあるが、石が意図して配置されたならば、意図通りたどるべきだと思うからだ。
 ちなみに飛び石の両脇、草本が踏み固められた部分はそのまま真北へ小道を形成している。ひょっとすると彼らが強引にラッセルし、応じて飛び石の存在が明らかになったようにも思われる。
 金気水と飛び石は緩く左右に曲がりながらざっくり北北東へ向かう。振り返ると草に埋もれて帰路が見えぬ。
「あいつら夜中にどうやって行ってたんだろ」
「ドローンで動画に撮った奴がネットにあって、緯度経度の座標が出てるんだって。そういうGPSアプリもあるから」
「禁足地が秘匿されてた意味がないね」
 歩くこと7分。ただ、飛び石を選んでいるの時間を要しただけであり、距離はさほどでもない。
 理絵子は足を止めた。
 墓石……のように見えたがそうではない。苔むした石柱。
 花崗岩。風化し、応じたさび色の付着物。パッと見1000年クラス。
 彼らが撮影してきた“ストーンヘンジ”の一部であることはすぐに判った。ただ、誰か触った痕跡はなく、ここの“王道侵入ルート”ではないことを示唆する。
「見て」
 登与が指さし理絵子は顔を上げる。
 草の中に土管が並んでいる……否否。
 石柱が倒れているのだと理絵子は判断した。少し離れて右側にも同じように石柱を構成したであろう円柱状の石が幾つか見える。
 過去、鳥居が立っており、地震などで倒壊したのだとすれば説明が付く。
 従って、向かって行くべきは。
 倒れた柱の並びと並行し、北の方向。
 緩やかな下り勾配。および、
 気づく。極めて静かである。
 風が吹いているので応じて草本が揺れ動き相互に触れあい、サラサラと音を立ててはいる。
 しかし、5月の草むらにしてはそう、生命感が薄い。それは屋上から遠隔視した時のイメージと合致する。
 動物がいないのだ。昆虫も含めて。
「結界?」
「違う。感じないでしょ。そういうのでなく、生き物が入れない」

(つづく)

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