【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -08-
すると、平沢はのろのろした動きでバットを自分のカバンに戻し、持ち上げて肩に掛け、彼女を見た。
そして、彼女を見、居住まいを正した。
「姫ちゃんって、すげえな」
諦めたような声音。寂しそうな瞳。
彼女は平沢進の自分に対する“強い気持ち”が消失していることに気付いて彼を見上げた。
自分に対する彼の認識が変わったことは火を見るより明らかだった。“一目惚れしたかわいい子”を見るそれではなくなってしまった。まるで手の届かないテレビアイドルを見るよう。
「それで、あの……ひとつだけ、立ち入ったこと訊いてもいいかな?」
応じた勇気を持って、反映された低く抑制された声で、平沢は問うた。
「何かな」
小首を傾げて聞き返す。
「普通の女の子……じゃないよね。催眠術とか、あの船とか。呪文っぽいのも聞いた」
開示すべき時が来た。彼女の答えは一つであった。足下のネコのしっぽ。
「本当の私を知る人は、私のことをレムリアと呼ぶんだ」
船……それは彼女が隠密裡に活動しているボランティア団体が所持する飛行帆船である。平沢はそれを見かける機会があった。見えてはならない存在なので、訊かれない限り説明するつもりはなく、黙っていた。
普通そんなものは存在しない。
「手品師で看護師だよ。その船の中ではね。私の力を必要とする場面はレムリア案件と呼びます」
「そうなんだ……」
「すごいがっかりしてるように見えますが」
すると平沢は立ち止まり、突如腰が抜けたようにぺたりと膝をつき、彼女を下から上までゆっくりと見上げた。
「大丈夫?体調悪い?」
「いや、打ちのめされてるんだ。こんな、こんな凄い女の子、レベルが違いすぎるって……オレ今、自分がすげぇガキなんだって恥ずかしくて仕方ない」
ああ、と彼女……以下レムリアと記す……は合点が行った。
彼にとっての「子供時代の終わり」が今、来たのだ。
「そんなことないよ。ガキ様ならあの状況下で私放り出して逃げ出します。あいつらのようにね。でもあなたは過去を振り切って、トラウマに打ち勝ってカバンを投げて応戦し、バット持って立ち向かおうとしてくれた。過去を聞かせるとか、私を信用してくれないと出来ないことのはず。嬉しかった、ありがとう」
レムリアは努めて優しい声で、語りかけた。
すると……野球部応じたイガクリ頭で無骨屈強な体格である彼の目から涙がポロポロ。
「あれ……何でオレ泣いて……ごめんみっともねぇ……でも……止まらないんだ何これ……」
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