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2022年5月

【妖精エウリーの小さなお話】翻弄-1-

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 びゅうびゅうと木枯らしが吹くさなか、道ばたに座り込んでいる女の子がいます。幼稚園にすら行ってないと思われます。水色のズボンと白いカーディガン。髪の毛は風にもてあそばれてくしゃくしゃ。周囲に親御さんと思われる大人の姿は見えません。
「どうしたの?」
 私は思わず声をかけました。寒くて座り込んじゃった……などの状態だったら大変です。「虫さん」
 女の子は私を振り返るでもなく答え、土の上を指さしました。その小さな指の先には野生のスミレが生えていて、短い葉が2枚だけ、地べたに貼り付くようにしており、そして、その葉を一心に食べている芋虫がいます。
 黒い身体にオレンジの筋が一本、黒いとげとげ。

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「ツマグロヒョウモンっていう名前のちょうちょの幼虫だよ」
「ちょうちょさんなの?」
 女の子は驚いたように振り返り、私を見、びっくりしたように小さく口を開けます。声にならない「あ……」とでもしましょうか。
「お姉ちゃんだあれ?」
「私はね、エウリディケって言います」
「お姫様みたい……」
 女の子は私を見上げて、見下ろして、言いました。私の服装は古来トガ(toga)と呼ばれる、白い一枚布を身体に巻いただけの貫頭衣。ギリシャ神話の彫刻で女神が着ていると言えばそのまんまです。
「ありがと。その虫はね、そうやってスミレの葉っぱをいっぱい食べて、大きくなって、サナギになって、そしてちょうちょに変わります」
 私は言いながら、危惧を覚えます。
 今は11月です。これから季節は冬に向かい、気温も下がって食草……スミレ類も少なくなります。
 私は手を伸ばし、幼虫のとげとげに触れました。とげ……と書きましたが、実際には針やとげのように固いわけではなく、プニプニした感触です。ぱっと見は毒虫に良くある姿、擬態の一種なのでしょう。
 幼虫は食事を止めました。
〈妖精さん……ですか〉
 喋ったわけではありません。そういう意思を持ったことを私が感じ取っただけ。食うのに忙しいのに何か用か、的なニュアンスを感じます。
 そして、説明が遅れました。私は妖精族だから昆虫たちと意思疎通ができます。人間さんの世界における任務は動物と昆虫たちの相談相手。要するに人間さんのそれが天使に対する役割分担。
〈私はニンフに属すエウリディケ。食べ終わったらどうするの?〉
 食べてるスミレは葉っぱが2枚に花一輪。後数分で食べ尽くします。

(つづく)

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【予告】エウリーのお話を少し

短いお話をとりあえず二篇、挟みます。

まず、2週間後、5月28日開始。

妖精エウリーの小さなお話「翻弄」

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【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -09・終-

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 その理由を彼女は説明出来る。そしてそれは言葉にすれば彼を次のステップへ踏み出させる後押しになろう。
「あなたにたくさんの我慢を、いっぱいいっぱい押し殺してきた辛い気持ちの積み重ねを感じます。体格のことや外見ことであらぬ誹謗中傷を受けてきたこと……でも、私はあなたが努力する男の子で、勉強の遅れを取り返したいと新たに努力を始めたこと知っています。それが最も大事なことだと私は自信を持ってあなたに伝えます。あなたの私に対する好意に応えることは出来ないけれど、友達でいてはだめですか」
 彼女は、手のひらを差し出した。
 彼は涙を止め、きょとん。
「友達……」
「そう。防空識別圏を設定しますという告白お断りの言い回しじゃなくて。気軽にくっちゃべる女子という意味で。女の子の友達」
 自分の提案はひっくり返すと「いたことないでしょう女友達」という決めつけになってしまって甚だ失礼なのだが、逆に言えば彼に条件が整ったという証明でもある。
 うん。これでいい。彼女は自分の物言いに自信を持った。
「いい、のか?」
「もちろん」
 ウィンクしてみせると、平沢はしゃがんだまま右の手を伸ばして来、彼女の手のひらを恐る恐る……おっかなびっくり、触れた。
 電撃に触れたように彼の腕が肩まで震える。その頬が目に見えて赤く染まる。
 彼女は震えで飛び出して行かないように握り返す。脂肪感ゼロでゴツゴツガサガサの男の手のひら。
 手首に触れて魔法を一つ。
 巻き付く毛糸。
「なんだこれ」
 平沢は手のひらを戻してじろじろ眺めた。
「ミサンガ。友達には強制的に付けさせてる」
「え、あれこれ結び目とかないじゃんどうやって……」
「そこは手品ですから。それは不思議なミサンガです。必要なことをあなたに教え、不要な時には出て来ません。試合で見つかると咎められるというなら、あなたがそう思えばそれは消えます……従妹のさくらちゃんに見せれば教えてもらえるでしょう」
 彼女は言い、ニヤッと笑った。こういう“後から自分自身意味を理解する魔法”は必要があるから働いたのだと知っている。
「お、おう。あれ?なんでさくらの名前知っ……」
「いいじゃん。帰ろ」
 彼女は先に立って歩き出した。

彼の傷跡/終

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