【妖精エウリーの小さなお話】翻弄-3-
しかも。
〈これだけの子たちが食べて行けるスミレこの辺には生えてないけど〉
様々な齢(れい・何回脱皮したか)、大きさの幼虫がそこここにいて、それぞれスミレを求めて歩いています。最初に出会った“彼”はこの中では大きい方。
〈食える奴が食う、それだけさ〉
ここで、ツマグロヒョウモンは、昆虫観察でよく使われる他のチョウとは、少し違うことを説明させてください。すなわち、日本本土に生息するモンシロチョウやアゲハなど図鑑や教科書で紹介されるそれら種族は、冬場に向かってたくさん食べて、サナギの状態で冬を越します。卵として産み付けられる時期に多少の前後はありますが、“サナギになって冬を越す”点では揃っています。栄養・成長に不足があり、サナギになれなかった者は生きられません。
対して、ツマグロヒョウモンはほぼ“成り行き任せ”です。早く成長すれば早くチョウになり、産卵して次世代が生まれます。成長が遅ければチョウになるのも遅くなります。この結果、ある瞬間にタマゴと、各齢の幼虫と、サナギと、成虫と、混在します。暖かくなれば動くし、寒くなれば動かない(動けない))。なので、冬に向かう状況でも日当たりが良くてスミレ草が豊富であれば、12月なのに羽化してチョウになったりします。ちなみに、アゲハモンシロは揃っていると言いましたが、沖縄などに暮らす者はやはり“成り行き任せ”の生態が見られます。四季を通じて食草があるからです。
逆に言うと、ツマグロヒョウモンは四季に順応してない種類だと言えるでしょう。それもそのはず、彼らは元々南方系の“成り行き任せ”な種類です。温暖化で日本国内の生息域が徐々に北上している状態。
と、頭上をひらり横切る影。
メスです。たくさんの黒点をちりばめたオレンジ色……“豹紋”の翅。メスの特徴は外周部の黒い縁取り。その中の白いストライプ。
〈おや妖精さんとは珍しい。降りてもいいですか〉
そこだけ雑草の密度の低い一角に彼女は降り立ちました。
お腹の先端を土の上や草の根元にツンツン当てながら歩いて移動して行きます。
産卵です。
〈大変ね〉
私は言いました。ツマグロヒョウモンは1匹が200を超すタマゴを産みます。その理由は。
〈少しでも多く、ですから〉
物音がします。
エサを探しているトカゲの仲間、カナヘビ。冬に向かって食べないといけません。地を這う
〈さよなら〉
チョウは危険を察したか飛び立ちました。
一方、幼虫たちは一斉にその場でピタリと動きを止めます。トカゲ類は動くものに飛びかかるからです。
(次回・最終回)
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