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【妖精エウリーの小さなお話】フォビア-1-

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 這々の体、といった姿で大きなクモがアパート外壁を歩いて降りてきます。

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 アシダカグモ。歩脚広げると人の手のひらサイズで、その図体でゴキブリ追って超高速で走り回り、クモ嫌いな人には悪夢のような存在。雨天とは言え、夜行性の彼らが昼日中の屋外を移動中とはよっぽどのこと。
〈ああ、妖精さんでしたか〉
 宙に浮いて様子を見ていた私に気付き、しかしそのまま止まることなく下へと歩き続けます。なお、“彼女”との会話はもちろん人語ではありません。意思を直接交わす能力・テレパシー。
〈気にしないで早く離れて〉
 私は促しました。様子を見に来た理由。虫達多数の“心の悲鳴”を感じたから。
 そういう能力があって、宙に浮いていられる理由。彼女が言ったように、私が妖精だから。
 現在人間さんの手のひらサイズ。伸縮自在で人間サイズにもなれます。小さいのはケルトの伝承に知られるフェアリーですが、私はギリシャ神話のニンフの血統も入っています。結果としてどっちの姿も取れるのです。
 アパート上方、窓の隙間から煙のようなものが漏れ出しています。火事ではありませんが、“心の悲鳴”の原因はこれです。
 煙殺虫剤。人間世界における私の“任務”は、人間さん以外の動物の相談相手ですから、こういう場合駆けつけます。
 ハエ蚊ゴキブリを救うのか……気付いたときには間に合わない場合が殆どです。この場所もアシダカグモは大きさ故に耐え、室外だったから逃げられただけです。
〈妖精さん、私はもう大丈夫ですから〉
 アシダカグモに呼ばれて地上に降ります。雨に濡れた自転車置き場。屋根はありますが穴だらけ。古くて、手入れもずさん。その穴から雨だれがボタボタたれ落ち、下のコンクリートで跳ねて自転車も濡れています。
 わずかな濡れてない場所に私も降り立ちました。
〈通りすがりにひどい目に遭いました〉
 アシダカグモの主食はゴキブリ。つまりゴキブリが多い。
 ゴキブリが多いところはゴミが多いか不潔な場所です。
 そんな場所?
〈いいえ。中に入ろうとしたところでブシャッと。なので中は見ていないんですよ……おっと人間が来ますよ〉
 アシダカグモは持ち前の脚力で屋根の柱へ駆け上がり、忍者のように柱の裏へと回って陰になる隅っこでピタリと停止。
 私も小さいので柱の陰に隠れます。妖精は人間に見られてはいけません。理由は人間さんが“いない”と定義したから。人間さんの世界に介入を許されない私たちは姿を見せてはいけない。
 だから、人間さんに見られるといなくなるのです。それはさておき。

(つづく)

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