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【妖精エウリーの小さなお話】翻弄-4・終-

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 しかし。
 葉っぱから葉っぱへ渡る途中だった幼虫が一匹、葉っぱが揺れたせいで落ちてしまいました。
 すかさずカナヘビがやって来、幼虫に噛みつき、そして飲み込んで行きました。
 彼……が、私が見ていたことに気付きます。
 そして。
〈最近増えてるこいつらは何だい?美味しいけどさ〉
〈ツマグロヒョウモン。南の方に住んでいたチョウ。温暖化でだんだん生息域を広げているけど、地域順応が終わっていない〉
〈ふーん。おっと〉
 カナヘビは次の幼虫を見つけて走って行きました。
 ツマグロヒョウモンのタマゴが多い理由……エサ不足や、このような捕食で、生きられない個体が多いから。
 ただ、本来は、暖かい地域で、いつでも、世代を継ぐことができた種類。
 寒くて動けなくなってそのまま、という命の失われ方は今まで無かった。
 その時。
「キャー!何これ!」
 先ほどの女の子のお母さん。恐怖と共に“見えたもの”がテレパシーに飛び込んできます。
 パンジーに群がり葉っぱを今まさに食べ尽くさんとする多数の黒いイモムシ。
 ツマグロヒョウモンです。食草のスミレ草は言わずもがな、同じ仲間であるパンジーやビオラも含まれます。そこへ大量にタマゴを産むわけですから、何もせず放っておけば。
 私は背中の翅を伸ばして飛び上がり、声のした方……まだ建って程なくとみられる白壁の住宅へ。
 2階ベランダにプランターが並べてあり、パンジーが色とりどりに咲いていますが、その花の周りそこそこに黒い虫たちがモソモソ。
「ママそれツマグロヒョウモンだよ。わぁいっぱい!」
「名前なんてどうでもいいの!全部食いやがってチキショー」
 シュー、シュー、エアロゾルの噴霧音、女の子の悲鳴。
 失われた十指二十指に余る命。
 ぼろぼろに食べ尽くされたベランダいっぱいのパンジー。

翻弄/終

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