【妖精エウリーの小さなお話】フォビア-3-
「何を……」
「いいからおうちへ!目の中に鉄さびを含んだ粉塵が入った!」
私の装束は白いので雨の屋外で転がれば真っ黒。
「汚らわしい!うちのゆうくんに何を!」
めんどくせえ女。
私はそのまま背中の翅にものを言わせて空中へ飛び上がりました。羽ばたきは一瞬なので見えてはいないでしょう。
ゆう君宅の窓の手すりの上に立ちます。念力は強力ではありませんが、鍵を開けるくらいなら。
開いて、入ると。
「これは……」
私は翅にものを言わせて、残っていた煙殺虫剤を全部外へ吸い出しました。
バン!と玄関ドアの開く音。
部屋のそこここにゴキブリがいると書いたら、何が起こっているかご理解いただけますか。
「何をするの!?まだ終わってないじゃない!ゴキブリいるじゃない!」
ヒステリー状態。
「ゆうくん、このゴキブリたちはいつもいるの?」
私は努めて落ち着いた声で訊きました。
「うん。煙やるといなくなるけど、すぐ来るよ」
私はゆうくんを窓枠に座らせて、部屋の中へ入りました。
常備薬であろう目薬をチョット失敬。手のひらにぱっと現れたので男の子はびっくり。
「そんな汚い格好……」
「やかましい!」
私は我慢できずに一喝しました。まず目薬をさして、次にしゃがみ込んで一匹呼び寄せます。
〈え?これ殺すつもりでやってたの?〉
カサカサとフローリングをやってきたゴキブリはケロリとしています。すなわち効いていない。
彼らは“耐性”を持っているのです。逆に言うと他の“殺虫剤が普通に効くゴキブリの天敵”はここには来ないので、よい繁殖場。
〈何食べて?〉
〈食いかす、生ゴミ、人の毛、あと何と言っても〉
ゴキブリは翅広げて飛びました。応じて金切り声が上がって、間もなく近所の人が来ることになるのですが、話を進めます。
ゴキブリは台所シンクに降り立ち、排水口を触角で示しました。
脱臭剤が撒いてありますが、それを超えて臭いが鼻を突きます。
排水口の蓋を開き、中の構造物を……。
ゴボッ、と嫌な音がしました。
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