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2022年9月

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -02-

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 坂本美咲はぱっと目を見開き、
「じゃぁ彼とは付き合ってないんだ。でも、よく一緒に帰ってるけど?」
 小首を傾げるが目線はきつい。
「何も。あれは諏訪(すわ)君のボディガードだよ。それに、普通にお友達でいる分には何も構わないじゃん」
 諏訪君というのは喘息があって、行き帰り彼女が同行している男子生徒である。そこに平沢も同行している。
「好きなんだ」
 逆に彼女は訊いた。
「え?あ、うん、その、気になってるというか……」
 坂本美咲は急にしおらしい口調に転じ、うつむいて目を伏せた。
 その諏訪君が福島と地縁があるため、原発事故と絡んで言いがかりを付けてきた女子生徒があるのだが、その言動にストップをかけたのが当の平沢である。従前、ひょうきん者でギャグ担当というポジションだった彼の、豹変ともいえる雄々しい態度に「ハッとなった」という。
 以上坂本美咲は背景を語ると、
「姫ちゃんにお願いがあって。その、何でもいいんだけど、彼が触ったものが欲しいんだ。紙、鉛筆、消しゴム……」
「もらって来てもらえないか、ってこと?」
「そう」
「何かおまじない?」
 坂本美咲は目を見開いた。
「何で判るの?」
「ご承知の通り慈善活動で手品をするので……」
 彼女は言いながら、左右の手を交互に開いたり閉じたりした。
 その都度、手のひらから紙に包まれたキャンディがコロコロ。なお、このマジックショーで彼女は“魔女のレムリア”と称している。以下、彼女をレムリアと書く。
「え?え?あ、あ。すごい」
「おひとつどうぞ」
 キャンディを持たせる。
「演出上、魔術の仁義みたいなもの語ったりするわけですよ。恋の魔法で相手の持ち物に秘薬を垂らして、とかよくあるパターン。それでもしかして、と思ったわけ」
 坂本美咲はキャンディをしげしげ眺め、包みを開いて口に含んだ。
 おもむろに視線を彼女レムリアに戻す。
「じゃあ、本気だ、と言っても笑わないで聞いてくれるかな?」
 まっすぐ見つめてくる。レムリアは坂本美咲がいつもひとりでいる理由を理解した。“素っ頓狂”なのだ。オカルト志向で応じて非・論理的であり、突飛な言動に行き着く。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -01-

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「姫ちゃん平沢(ひらさわ)と付き合っててエッチもしたってほんと?」
 姫ちゃん、と呼ばれた彼女はさすがに面食らって少しの間瞬きを忘れた。最近髪を伸ばし始めたので、身体の揺らぎが髪の毛先端に増幅されて出てくる。
 目の前の級友を見返す。じっと見てくる眼鏡の双眸、その頬にはそばかすが見られ、男子たちの評を聞くに地味で目立たないという。確かに、いつも静かに文庫本を開いて見てるイメージが強い。しかし、そのまくしたてるような話し口は饒舌系と思わせる。
「ちょっと待って。落ち着いて。大きく息を吸って」
 彼女は押しとどめるように手のひらを向け、坂本美咲(さかもとみさき)というその娘に深呼吸を促した。花の時期すぎた春の終わり、夕方間近い公園内。四阿(あずまや)で丸いテーブル挟んで向かい合う青いブレザーの制服を着た娘が二人。「相談したいことがあって」と呼ばれたものだ。彼女は普段、休み時間のたびに仲間に周りを囲まれる方なので、坂本美咲とは下駄箱で出会えば挨拶はする、程度。
「えーっとですね」
「はい」
 二の句を継ぐ前に相づち。今にもそのままテーブル越しに乗り出して来そう。
「まず、私にはフィアンセがいます。22歳の社会人です」
「えっ?」
 坂本美咲は文字通り目をぱちくり。
 この話はあっという間にクラスに拡散したので言わずもがなと思ったのだが。
「平沢君には告白を受けました。でも、そういう事情を話して無効である旨説明しました。エッチうんぬんはそのフィアンセとシたのかと他の子に訊かれたので、結婚するまでしませんと答えただけです。いろいろ端折って誤解しすぎです」
「なぁんだ……」
 坂本美咲は安堵の表情を見せた。乗り出すまでではないが若干腰を浮かせていたようで肩の高さが変わる。ちなみに彼女は東京・原宿を歩くと良くナンパされたり芸能スカウトと称す者に声を掛けられたりするが、「夫がいるので」と返すと、多くの場合想定外の反応であるので押し黙って二の句が来ない。
 どう見ても中学生に見えるだろうにさもありなん。なお、長い髪は彼氏持ちの象徴みたいな部分があると聞いたので、そういう返しを使うのに無言のエビデンスになろうか思った次第。もうすぐ校則に引っかかるという指摘もある。

(つづく)

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9月になったから、というわけではないけど

魔法少女レムリアシリーズ「魔法の恋は恋じゃない」9/7(水)始めます。

2週間ごとに更新。

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【妖精エウリーの小さなお話】フォビア-4・終-

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〈あ、だめ、それに私殺す気はないから〉
 あらかじめ言ってから、中をのぞき込みます。
 排水パイプにこびりついたおびただしい量の油と、そこここでそれを食らうゴキブリ。
 パイプ内にびっしり居着いたゴキブリ。
 薄暗く、時々お湯が流れて温かく、廃油という食料。
 要するに繁華街の下水と同じ環境。
「今度は何ですか」
 それは駆けつけた近所の人。更に数人加わり、玄関からその人々が見たのは、キッチンに立つ薄汚れた女と、這い回るゴキブリたち。
「あんた誰だ?」
 とりあえず無視して。
「お母様、調理に使った油はここに流してますか?ここを掃除したことがありますか?」
 すると。
「ママそこ使わないよ。お仕事忙しいからお弁当買ってくるの」
 ゆうくん。
「ちょっとゆうくん!」
「パパが帰ってきてジャーってやってる」
 母なる人は私をにらみつけました。
「さっきからあんた何なの!」
「お宅のゴキブリは殺虫剤の使いすぎで効かなくなっており、この排水パイプに暮らしています。ここを掃除しないと解決しませんが、掃除したことは?」
「そんな不潔な場所触れるわけ無いでしょ!」
「では、専門業者に頼むことをお勧めします」
 すると母親は何かに気付いたように目を見開き、血相を変えました。。
「わかった。あんたそういう業者の手先だろ!ウチが虫が苦手なのを知ってゴキブリをわざと……」
 めんどくせえ女。
「ゆうくん」
「なあに?」
 ゆうくんは畳の上を歩いてきました。
「パパに、ここへ火傷するような超熱いお湯をじゃんじゃん流してって伝えてください。油を溶かして流さないと、このゴキブリはずっとここにいます」
「わかった」
〈てなわけでお前達、出ておいで。今夜中に殺されるからここは終わりだよ〉
〈へーい〉
 三度金切り声の時間です。まぁ出てくるわ出てくるわ。キッチン台の下、冷蔵庫の後ろ、電子レンジの後ろ。
 ハーメルンはネズミでしたか、私はゴキブリ。
 ぞろぞろ引き連れて玄関から出て行きます。駆けつけた近所の人は距離を取って唖然呆然。
 階段で全員が翅を広げると阿鼻叫喚。
「リクラ・ラクラ・テレポータ」

フォビア/終

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