【妖精エウリーの小さなお話】フォビア-4・終-
〈あ、だめ、それに私殺す気はないから〉
あらかじめ言ってから、中をのぞき込みます。
排水パイプにこびりついたおびただしい量の油と、そこここでそれを食らうゴキブリ。
パイプ内にびっしり居着いたゴキブリ。
薄暗く、時々お湯が流れて温かく、廃油という食料。
要するに繁華街の下水と同じ環境。
「今度は何ですか」
それは駆けつけた近所の人。更に数人加わり、玄関からその人々が見たのは、キッチンに立つ薄汚れた女と、這い回るゴキブリたち。
「あんた誰だ?」
とりあえず無視して。
「お母様、調理に使った油はここに流してますか?ここを掃除したことがありますか?」
すると。
「ママそこ使わないよ。お仕事忙しいからお弁当買ってくるの」
ゆうくん。
「ちょっとゆうくん!」
「パパが帰ってきてジャーってやってる」
母なる人は私をにらみつけました。
「さっきからあんた何なの!」
「お宅のゴキブリは殺虫剤の使いすぎで効かなくなっており、この排水パイプに暮らしています。ここを掃除しないと解決しませんが、掃除したことは?」
「そんな不潔な場所触れるわけ無いでしょ!」
「では、専門業者に頼むことをお勧めします」
すると母親は何かに気付いたように目を見開き、血相を変えました。。
「わかった。あんたそういう業者の手先だろ!ウチが虫が苦手なのを知ってゴキブリをわざと……」
めんどくせえ女。
「ゆうくん」
「なあに?」
ゆうくんは畳の上を歩いてきました。
「パパに、ここへ火傷するような超熱いお湯をじゃんじゃん流してって伝えてください。油を溶かして流さないと、このゴキブリはずっとここにいます」
「わかった」
〈てなわけでお前達、出ておいで。今夜中に殺されるからここは終わりだよ〉
〈へーい〉
三度金切り声の時間です。まぁ出てくるわ出てくるわ。キッチン台の下、冷蔵庫の後ろ、電子レンジの後ろ。
ハーメルンはネズミでしたか、私はゴキブリ。
ぞろぞろ引き連れて玄関から出て行きます。駆けつけた近所の人は距離を取って唖然呆然。
階段で全員が翅を広げると阿鼻叫喚。
「リクラ・ラクラ・テレポータ」
フォビア/終
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