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【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -01-

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「姫ちゃん平沢(ひらさわ)と付き合っててエッチもしたってほんと?」
 姫ちゃん、と呼ばれた彼女はさすがに面食らって少しの間瞬きを忘れた。最近髪を伸ばし始めたので、身体の揺らぎが髪の毛先端に増幅されて出てくる。
 目の前の級友を見返す。じっと見てくる眼鏡の双眸、その頬にはそばかすが見られ、男子たちの評を聞くに地味で目立たないという。確かに、いつも静かに文庫本を開いて見てるイメージが強い。しかし、そのまくしたてるような話し口は饒舌系と思わせる。
「ちょっと待って。落ち着いて。大きく息を吸って」
 彼女は押しとどめるように手のひらを向け、坂本美咲(さかもとみさき)というその娘に深呼吸を促した。花の時期すぎた春の終わり、夕方間近い公園内。四阿(あずまや)で丸いテーブル挟んで向かい合う青いブレザーの制服を着た娘が二人。「相談したいことがあって」と呼ばれたものだ。彼女は普段、休み時間のたびに仲間に周りを囲まれる方なので、坂本美咲とは下駄箱で出会えば挨拶はする、程度。
「えーっとですね」
「はい」
 二の句を継ぐ前に相づち。今にもそのままテーブル越しに乗り出して来そう。
「まず、私にはフィアンセがいます。22歳の社会人です」
「えっ?」
 坂本美咲は文字通り目をぱちくり。
 この話はあっという間にクラスに拡散したので言わずもがなと思ったのだが。
「平沢君には告白を受けました。でも、そういう事情を話して無効である旨説明しました。エッチうんぬんはそのフィアンセとシたのかと他の子に訊かれたので、結婚するまでしませんと答えただけです。いろいろ端折って誤解しすぎです」
「なぁんだ……」
 坂本美咲は安堵の表情を見せた。乗り出すまでではないが若干腰を浮かせていたようで肩の高さが変わる。ちなみに彼女は東京・原宿を歩くと良くナンパされたり芸能スカウトと称す者に声を掛けられたりするが、「夫がいるので」と返すと、多くの場合想定外の反応であるので押し黙って二の句が来ない。
 どう見ても中学生に見えるだろうにさもありなん。なお、長い髪は彼氏持ちの象徴みたいな部分があると聞いたので、そういう返しを使うのに無言のエビデンスになろうか思った次第。もうすぐ校則に引っかかるという指摘もある。

(つづく)

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