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2022年10月

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -04-

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 そこまで読んでふと見ると、坂本美咲のナップザックのポケットには“天然水”のペットボトルが入っている。
 次、“友”のところ。要求事項。自分が読んでしまっていいのか?そうと知らずに自発的に動いてくれるように(そう仕向けるように)、事態を持って行くのが良くあるパターンのように思うが。
 ま、いいけど。
“あなたが友と認める者が真の友であるならば、その友は喜んであなたの頼みに応じてくれましょう。但し友が手に入れてくれたお相手の授かり物が、あなたの求めたものと相違しても、あなたは不平を口にすることも、猜疑心を持つことも、なしてはなりません。それは破滅を暗示します”
 あ、やっぱ良くない。が、時既に遅し。
“このことは、友の姿をした、しかし友でない者には伝えてはなりません。(虫食いで読めず)にも伝えてはなりません。隠しておいた全てが顕わとなり、あなたの望みは破壊されます。ただし、導く光に正しく従うならば、その光はあなたの正しい姿を教えるでしょう”。
 そこでレムリアは坂本美咲を見た。
「私があなたの“友達”であることを否定したら終わり、というかそもそも始まらないねこれ」
 坂本美咲がギョッとした顔で見返す。
「それって……」
「そんなこと言わないけどさ。逆に友達として言うけど取り組む姿勢が少し安易だよ」
 言うだけ言って反応は待たず続きを読む。ここまでを見る限りこの本は、オカルト乙女……追って“中二病” の一類型と知るのだが……に向けた、ファンタジックなおまじないではなさそうだ。北欧系の産業革命以前に書かれた、すなわち“本物の魔女”がいた時代の書物翻訳と感じる。
 ならば。
「紹介する作法は正しく実践されるほどに叶う可能性が大いに高まって行きます。対しお力賜る方への不義や作法への誤謬が重ねれば叶う可能性は減少に転じ逆に不幸への道が色濃くなって行きます。……なるほど。一つ訊きますが美咲ちゃん。あなたはあなたの思いを叶えるために命を懸ける覚悟がありますか?」
 彼女は少し音読して質問を投げた。
「命がけ?」
「そうです。彼は私が好きだと言ったのです。それを100パーセントあなたへ振り向けるのですから、応じた覚悟を要求されます。なぜならそれで誰かの運命が変わるかもしれないからです。魔法は元々最大の価値である命を対価に魔族を従え、欲望目論見を強制するものです。彼らかて天使精霊からの制裁リスクを背負ってまで誰かのために働いたりしない。割に合いませんからね。運命を変えるとはそういうことです。あなたの何かを犠牲して、あなたの目論見通りに仕向ける。そこまで真剣に考えてますか?

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -03-

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「笑いはしないけど、正攻法じゃないと思うな。きっかけ作って声をかける、じゃないの?」
 一応正論。ただ、この娘の心はどうやら決まっているらしい。
「そう……だと思うんけど、姫ちゃんの言うとおりだけど。同じ女の子に協力してもらえないような奴に男の子の友達なんかもっとハードル高いよ」
 坂本美咲は花しぼむようにしょげて肩をすぼめた。それは演技だが本人なりの理解も含んでいよう。
 少し考える。ロジハラ噛ますのは可能だが傷つくだけであろう。また、ここで断れば彼女は反感を抱くとともに、自分がオカルト趣味を馬鹿にしつつ吹聴するのではという疑念を持つことになるだろう。
 それは求めていないし、結果として非生産的だ。
 目線を戻して。
「一般に魔法を使う場合、応じた制約や手順、禁止事項があり、それは協力者にも要請されることと考えますが、その辺を教えてもらえますか?」
 ちょっと声のトーンを下げて。すると坂本美咲は少し驚いたように目を見開き。
「え?あ、えっと……」
 四阿テーブルのナップザックの中から、取り出したのは古びた表紙の大ぶりな本。
“魔術の実践”
 分厚く、表紙をはじめ角の部分はボロボロ。貼り合わせがバラけてしまっているところも。
「古本屋で見つけたんだ。昭和13年だって」
 それは、坂本美咲にとって古さをアピールする物言いだったと思われるが、春先まで海外居住だったレムリアに“昭和初期”はピンと来ないようだ。
「見ても?何ページ?」
 レムリアに周辺情報はどうでもよくて、肝心なのは中身。
「ポストイット挟んであるところ。ページ同士貼りついて開かないところの前」
 表紙タイトル下のカタカナ著者名と訳者名。どちらも知らない名前。
 表紙をめくると前書きがあり、“あなたに幸せをもたらすために”著したそう。目次は基本的な心構えや習慣づけの促進が冒頭にあり、以下、タロットやルーン文字を使った占いの解説。金運、恋愛、呪詛。なお、当時の活字ゆえ書体(フォント)が古く、いわゆる“旧仮名遣い”なのだが、レムリアは文脈からおおよその理解が付くので一字一句は気にならない。
 恋愛に付箋がしてある。“友と呼べる者と共に永遠の愛を召喚”。
 思いを寄せる相手方の持ち物、人体組織片ならなお可。匂いを封じた小瓶でも可。出会うことから求めるならば、自分の血と混ぜて月明りを一晩当てた夜露を垂らし、迷いがあるときはルーンの声を聞いて指示に従う。血は冒頭の心構え、習慣づけを半年実践し、浄化された状態でなければならない。
 その習慣づけ。“朝の光より早く目覚めてその光を迎え、夜を無事過ごせた感謝を述べること。屠られたものを口にしないこと。飲み水は大地から沸き出でたもののみを飲むこと。”

(つづく)

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