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めーるぼっくす

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2022年11月

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -07-

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「はんぷくよことび?」
 帰国子女に分類されるレムリアはそれが何か知らないので訊いた。が、即座にシャカシャカ横ばいするようなイメージが意識に沸いて理解した。
 それは平沢が説明用に意識に思い浮かべた映像を直接彼女自身が見たためである。そういう能力を彼女は有する。知られた用語でテレパシーという。
「こう」
 平沢は実演して見せた。見た目学生カップルの片方がやにわに反復横跳びを始めたわけで、居合わせた人々が怪訝な目。
 小学生っぽい子供たち数名がゲラゲラ笑う。
「こう?」
 レムリアは真似して見せた。公園遊歩道で男女が反復横跳び。
 小学生たちは座り込んで爆笑した。
「おもしれー!」
 自分たちの所作が“ウケた”ことに平沢が気づいたらしい。彼はクラスで道化役だが、笑わせるのが大好きなのだという。
「おもしれぇか?」
「めっちゃおもろい!」
「そうか。これに“女神のレリーフ”を混ぜるとこうなる」
 女神のレリーフとは、どうやら古代エジプト王墓のレリーフに見られる、両手を広げて手のひらを上に向け、顔を横に向けたポーズのことらしい。
 ついでなのでレムリアも一緒になってそのポーズで左右に飛んでみる。
「あっはっは!」
「何これ!」
 子供たちに受けることそのものは自分としても本望だ。だから自分の場合マジックショーをやっているのだ。
「以上」
 ひとしきり笑わせた後、二人はピタリと動きを止め、何事もなかったかのように二人して歩き出す。
 背中でまだ笑っている子供たちと、笑顔の大人数名の視線を感じる。
「姫ちゃんイケるねぇ」
「長く入院している子供たち、施設にいる子供たち、お一人のお年寄り、笑顔が少しで増えれば素敵だと思って」
 途端、平沢は立ち止った。
 同時に感じる、彼が意識に受けた巨大なショック。
 振り返ると坊主刈り喉仏グリグリの180センチが涙ボロボロ。

(つづく)

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -06-

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2

 彼の名は諏訪利一郎(すわ りいちろう)といって、喘息の持病がある。東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)で通っていた病院が損傷、心配した両親親類の勧めもあり、東京多摩地区の叔父宅に身を寄せている。そこから中学校までの行き帰りに彼女レムリアが付き添い、さらに自称“ボディガード”として平沢進(ひらさわすすむ)が同行している、という次第。この10分程度の道程でレムリアと平沢は諏訪君から数学を教えてもらい、更に諏訪君を送り届けた帰り道、レムリアが平沢に英語を教えている。“二人一緒に歩いている”目撃はこの復路のスタイルによる。
 諏訪君が横断歩道を渡ったところで付き添いミッションは完了。
「じゃぁ小テスト返すね。」
 来た道を戻りながら、彼女は葉書サイズの紙を平沢に返した。自作の“成句”の小テスト10問10点。
 3点。
「マジか……ちょっと自信あったんだけどな」
 平沢は野球部に所属し、背が高く“野太い”でも表するか、しっかり目の体格である。応じて声が低く、コントラバスのよう。
 スポーツ刈りの頭をポリポリ掻いて、しょんぼり。
「暗記は出来てると思うんだけど、スペルミスがね。soonがsonになってるし、それは息子。後はなんだろ、ローマ字読みしてそれをフィードバックしちゃってる感じ」
「あー、そうかも。でもどうやっても覚えられないんだ。どうしたらいい?」
 ここで彼に返した答案はコピーである。オリジナルは坂本美咲のために確保した。
「裏に練習問題を作ってみた」
 今回間違えた単語と、よく似た綴りや、発音と字面が一致せず覚えにくいものを並べ、隣に同じ物10個書け。
「書いて、何度も書いて、クセとして身に着けるしかないと思うよ。そうすると『ああ、練習した面倒くさい奴だ』って意識付けになるし、最終的には体が覚える。普通、文章書く時って、手を動かすだけで文字の順序とかいちいち考えないでしょ。そういうレベルに持って行くしかない。スポーツもそうじゃない?打つとか投げるとか、考える?」
 たとえ話が野球に及んで彼の顔色は良くなった。
「考えない。あー、そういうことか」
「楽して上達する道はなし。野球のスキル維持する練習鍛錬よりは単純で楽だと思うけど……ちなみにルーティンってどんなことしてる?」
 それは坂本美咲に“すすむくん情報”を教えるためであるとともに、routineという単語を実感を持って覚えてもらうためであり、比較して軽いでしょと思ってもらうためでもある。
「るーちん?」
「そう。決まり事のこと」
 渡した練習コーナーに一つ書き足す。routine。
「こんなスペルなんだ……えっとね」
 6時起きして柔軟、腹筋、腕立て。ランニング15分。素振り200回。反復横跳び15分。

(つづく)

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -05-

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 真顔で問うてみる。
「姫ちゃん怖い……本物の魔女みたい……」
 肩をすぼめて目線を外す。その反応は、はぐらかし、とは判じたが、それ以上は追い詰めなった。
 魔法がそんなやすやすと成就するなら、今頃世界はわがままな金持ちによって無茶苦茶になっている。
 ページをめくる。読んでレムリアは思わず小さく笑った。
「それと、このことを忘れないでください。あなたの思いを叶えることが、大いなる意思に背くものであるなら、大いなる意思は全てをなきものとすべく相応しい者を遣わし、あなたは二度とこの書を手にすることはない……美咲ちゃん。これで、私がその、相応しく遣わされたのだしたらどうする?」
 坂本美咲は逸らした目を直ちに戻して大きく見開いた。眼鏡のレンズより大きくなったかと思うほど。
「それ本当?」
「覚悟を問うてるのだと思いますよ。あなたがこれを信じるなら魔女はいるわけだし、応じた取り消される可能性、リスクもあります。軽はずみではありませんか?……私の知る限り、本物の魔法は女の子のおまじないとはワケが違いますよ」
 坂本美咲は即答はしなかった。その時間にレムリアは本を閉じて返した。
 坂本美咲が受け取る……“本を手にできた”。
「やる」
 坂本美咲は強く、短く言った。
 決意が結ばれたとレムリアは理解した。
「姫ちゃんは彼と友達になれた。それは、彼が女の子をきちんと見てくれることだと思うし、姫ちゃんが私の話をちゃんと聞いてくれたこと自体、“お導き”だと思うし」
「判りました」
 レムリアは短く応じた。
「明日には渡せるよ。彼が手にしたもの。半年の習慣づけってどの位できたの?」
 自分たち思春期の娘に屠られたもの……動物性たんぱくを摂るなというのは思想信条抜きに成長という観点から良くないのであるが。
「ずっと大豆ハンバーグ」

(つづく)

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