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2023年2月

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -13-

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「え?そこから臭う?」
 と、自ら脇の下をクンクン。彼が体臭を気にしていることは周知で、それを踏まえてのボケ。
 それは坂本美咲の想定を越えたのであろう。脇の仕草を見、大柄な彼の大きな鼻の穴がヒクヒク動く様を見る。
 そして、彼女も彼の“コンプレックス”は聞き及んでいたようで、思わず「ぷっ」とばかり吹き出した。
「あはは……」
「おいおいお前ら、最初の発言が『おっさんくさっ』『あはは』ってひどくね?」
 これに坂本美咲はタガが外れた。
「あはははは!」
 底抜け大爆笑とでも書くか。それは“受け過ぎだろ”と感じたか、クラスのボケ担当を自認するさすがの平沢もやや困惑気味。
 ただ、〝実質初めて〟の緊張は解けたことだろう。
 本題。
「ごめんねー。彼女と先にやってた。漫才どーしよねぇ。ツカミは出任せ成り行き任せでいいかなって」
「まぁ俺らなら何とかなると思うけどね。そこからどう強引にマジックショー持ってく?」
「適当に失敗手品ぶち込むから、魔女見習いのテスト、あたりの設定が無難かな。てなわけで美咲ちゃんそれでいい?」
 いきなり話を振られて予想外だったか彼女はきょとんとしてから。
「え?ああ、見習い魔女ってこと?私が」
「そうそう」
「いいよ。判った。楽しそう」
 緩やかでナチュラルな微笑み。平沢の瞳孔がちょっと大きくなったのをレムリアは見逃さない。
 しかし彼はすぐにレムリアに目を戻し。
「んで?〝魔女見習い〟って設定をどうぶち込むん?」
「見習いが技を披露する場は試験でしょ。ヒラが教官……」
「オレ魔男(まおとこ)ってことか」
 坂本美咲はまた吹き出した。レムリアは“まおとこ”の意味するところを坂本美咲の情動から理解して遅れて笑った。
「あっはっは!」
「まおとこはお子様もいるからNG。でも魔女に対する男性の同義語ないね。魔神、魔王?」
「魔王にしようか。いかにも魔王だろオレ。あだ名ヒラだし」
 手を腰にし胸を張る。いがぐり頭に声変わりを象徴する喉仏がぐりぐり動き体操ジャージ。ヒラは平社員……要は組織の下っ端の俗称。
 その有様は“魔王”の与えるイメージと完全に逆。だから〝ギャグ〟になる。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -12-

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「綺麗……手触り冷たいから水晶だよね」
 魅入られたようにじっと見つめる。その瞳に透明なきらめきが反射して輝く。
「差し上げましょうか?そのままお守りになってくれるでしょう」
 ルーン文字エルハツの意味するところ、守護者によって守られている。
「いいの?」
 坂本美咲は顔を上げ、レムリアを見た。その瞳がきらめきに変わって瞠目に拡大し黒水晶を宿す。
「ルーンに従え……そういうことでは?」
「でも1個減っちゃうんじゃ……高そうだし」
「そこでケチるようじゃ意味なくない?魔法を信じるってそういうことでは?」
 坂本美咲はしばらくレムリアを見つめ、次いで手のひらの水晶文字を見つめ、そして、ギュッと握った。
「マジックショーの魔女、やってみるよ。デイサービスの催しなんだよね。きちんと練習もしたい」
「そう来なくっちゃ!」
 レムリアは言い、両の手を合わせてパチンと鳴らした。

4

 土曜日。
 試験に向けた自習用に教室が解放されているので3人で待ち合わせる。ろくに口をきいたこともない坂本美咲を呼んだことに対し、平沢は最初怪訝な顔をしたが。
「興味あるんだってさ」
「ふーん、いいよ」
 自身、〝細けぇことは気にしない〟と言うが、本領発揮というところか。
 ただし、後から彼女が来て〝二人の間に入り込めない〟だと困るので、少し先に入ってシナリオの調整。ドスドスという足音。
「ちーっす。お、姫ちゃん早ええ。よっ!」
 ドアががらりと開き、野太い声が“ぶるん”とばかりに室内に響き、体育着ジャージ姿の平沢が入ってくる。
〝よっ!〟は坂本美咲に対して。片手をあげて声かけ。それはレムリアに〝なじみの飲み屋ののれんをくぐるおじさん〟を想起させた。読んでる漫画の1シーンだが。
 坂本美咲を見る。平沢の姿を足下から首の下へ向かって追いかけるように見ている。
 ただ、顔を、目を見ることは出来ていない。
 ひと肌。
「よ、っておっさん臭(くさ)」
 応じて彼の仕草に対して突っ込んでみる。

(つづく)

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