« 2023年2月 | トップページ | 2023年4月 »

2023年3月

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -15-

←前へ次へ→

「判りました。君たちはいいかな?」
 座った子供達に問いかけ。
「あ、はい」
 先頭に座っていた女の子が答える。急に訊かれてちょっと緊張。
「ありがとう。では始めましょう。今日は当院始まって400年の歴史の中で初めての出来事です。魔女の認定試験」
 副住職は仏像右奥の引き戸へ向かい、開き、退出した。
 仏像左手。
 奥の方より平沢が歩いてくる。中学校の体操ジャージである。
 仏像の前に足を開いて立ち、手を腰に胸を張る。
「諸君、私は魔王だ」
 会場は無言。〝滑った〟というより唐突すぎる。
「あ、観音様ちーっす」
 仏像に向かってヘコヘコ。
「うそつけ平沢!」
 この声は諏訪君。
 子供たちが背後を振り返る。
「誰だお前は!私は平沢ではない。見ろ、それが証拠にここに魔王と書いてある」
 平沢は言って背中を向けた。
〝魔王〟と書いた紙が貼ってある。
「どう見ても魔王だろう」
「どう見てもジャージだが」
「ジャージに見えるなら脱いでやる」
 平沢は言って、観客に背を向けたまま、ジャージの上着を脱ぎ捨てた。
 白い体操シャツに〝魔王〟。
「魔王だろ?」
 ここで子供たちから小さな笑い。
「じゃ、始めるぞ」
 平沢は振り返る。
 体操シャツの胸に〝3-3 平沢〟。
「平沢じゃねぇか」
 諏訪君が突っ込み、ここでようやく本格的な笑いが取れた。
「あのー平沢君、じゃなかった魔王様」
 観客席の後ろからレムリアは声を上げた。

(つづく)

| | コメント (0)

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -14-

←前へ次へ→

 坂本美咲はついに机に突っ伏してお腹を抱えた。
「だめ……やめ……おかしい……」
「ウケてるよ」
「じゃ、魔王の制服がジャージの世界で」
「いいね。合格するとジャージになると。美咲ちゃん聞いてる?ちゃんと設定書くか覚えるかしてね。ヒラの魔王に拝謁して手品試験を受ける魔女見習いってことで」
 これに坂本美咲は身体を起こして対応しようとするが、腹筋が震えてしまったか思い通りにならない。
「待って……判ったけどちょっと待って……こんなに面白いって思わ……わははははは!」
 その笑い声は“女の子なんだから”やめなさいと言われたであろう類いの爆笑と言って良かった。
「やべぇ本物の魔女の笑いだ。もう合格出そうかな」
「ぎゃははは!」
 上半身のけぞらせて足をバタバタさせて文字通り笑い転げる。〝ツボに入った〟と表現する向きもある。彼らは空き教室を選んで集まったのだが、坂本美咲の大笑いに何事かと覗きに来た生徒もあるほど。
「うるせえよお前ら」
「あ、オレのせいだわ」
「なんだヒラかよ」
 じゃぁ仕方ないとばかりに、文句を言いに来た生徒がドアを閉めて去る。それで通用する。言い換えれば彼の行くところ笑いあり。

5

 そして月曜夕刻。
 平沢家に隣接する寺のお堂に集まったお年寄りと子供たち。
 仏像の前にスペースが作られ、子供たちが〝体育座り〟で並び、後ろにはパイプ椅子に座ったお年寄り。ただし、椅子には諏訪君の姿もある。これは彼が現在預けられている叔父夫婦が高齢であり、このお寺の法話(月例講話会)に参加するうちに立ち上がったイベントであることに基づく。子供達は“トワイライトスクール”と呼ばれる、共働きの家庭の子供さんを両親の帰宅まで預かる施設から。どちらもお寺が関わっての合同イベント。
 廊下から姿を見せた法衣姿の副住職。寺の息子さんだそうで若い印象。眼鏡をかけている。
「本日はお集まりいただきありがとうございます。暑い寒いありましたらお知らせいただきたいのですが大丈夫でしょうか」
「こっちは大丈夫だと思います」
 この発言は諏訪君。そういう部分をお願いしている。

(つづく)

| | コメント (0)

« 2023年2月 | トップページ | 2023年4月 »