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2023年6月

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -22-

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「え?オレ」
 彼は手を伸ばし、指揮棒の先端を握り、
 開いた。
 傾いた“N”のような、“Z”の裏返しのような、それ。
「姫ちゃん……」
 坂本美咲は悲壮な目でレムリアを見た。
「え?何?これ悲惨なの?」
 平沢が戸惑った顔で少女2人を交互に見る。
 レムリアは息を吸った。示唆“言ってよい”。
「エイヴァーツ。死神」(Eihwaz)
「ええ?何それ……」
 平沢はタコのように口をとがらせて眉毛をへの字にした。
 まぁ、あまり気分のよいものではないだろう。
 もちろん、この回答の相手先は坂本美咲である。彼女の問いに対するルーンの答え。
「これは魔王を演じた平沢君への忖度じゃない?もう一度やってみて?」
 方便。彼に再度握らせる。これはコントロールできる。
“X”が縦に2つ並んだような。
 諏訪君が笑った。
「え?え?」
 平沢はキョロキョロ。レムリアは少し笑って。
「これは乙女が口に出すのは恥ずかしいかな。イングツ。性欲をかき立てる、みたいな意味」(Inguz)
「マジで?」
「マジで。実はスケベ?」
 魔女のいたずらな微笑みで訊いてみる。
「えー、まー、男子として恥ずかしくないレベルには」
「これこれ真面目に答えなくてよろしい。まぁ、占いでこれが出たら、性欲の向こう、豊穣とか生誕みたいなポジティブな意味を答えてあげるのがセオリーかな。で、ペンダントにして身につけておくとセクシャルダイナマイツなお守りになりますと。欲しいならあげるよ?」
 すると、ここで吹っ切れたように笑い出したのが坂本美咲。
「あははははは」
「えー?なんかひでえな坂本さん」
 平沢はまたぞろタコ口になってもう一度指揮棒を握った。
 が、イングツのまま変わらない。何度握ってもイングツ。なお、この文字は上下同一である事も手伝い、逆位置・リバースはない。
「違う違う。ごめん……」
 坂本美咲は考え込むように、少しの間、黙り、
 意を決したように口を開く。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -21-

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 坂本美咲は指揮棒をギュッと握った。
「あ、いや、イヤならいいんだが?」
「いえ、違います。この水晶には古代文字が浮かぶんです。その意味を考えてました」
 坂本美咲は字面を副住職に見せた。
「ルーン文字かね」
 副住職の知見に女の子2人は少なからず驚いた。ルーンを魔法、占いのアイテムと置いた場合、仏教と最も遠い位置にある存在だろう。
「ルーン?ゲームに出てくる?」
 これは諏訪君。北欧神話の神々やルーン文字はそういう系のゲームで多出。
 キョトンとしている平沢。
「バイキング時代の古代文字だよ。キリスト教がふつーのアルファベット持ってきて廃れた。文字個々に意味が持たせてあるので、占いや魔法のキーワード、発動アイテムに多く使われる」
 レムリアは軽く説明した。
 すると坂本美咲の手が動いた。
 ポケットの中から取り出すエルハツ。
「同じものだね」
 副住職は言った。
 坂本美咲は、指揮棒を副住職に差し出した。
「た、試してみてください」
 ちょっと震える声。
「そうかね。では」
 副住職は、握って、離した。
 Fに似た、それ。
「アンスルじゃん!すげぇ。オーディンの象徴だぜ」
 興奮気味の諏訪君。なお、意味は高い知性など。スペルANSUR。
「北欧神話のオーディンかね?いやぁこれは忖度だなぁ」
 副住職は後頭部をポリポリ掻いた。
 そこで坂本美咲が気づいたように彼に……平沢に目を向ける。
「やってみて」
 レムリアは気づいた。彼女はルーンに尋ねている。
 啓示のように浮かんだ想いは“自分は口出ししてはならない”。
 坂本美咲の目は射るように真剣である。瞳自体が光を発しているかのよう。
 だが、彼は気付かない。

(つづく)

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