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2023年7月

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -24・終-

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「高校野球でスター選手と持て囃されても、いざプロに入ったらボコられて記憶にも残らず引退する……ということは、時々、あります。そういう、ことですよね」
「その通り。だから多分、なんだけれども、皆さんは、それぞれに、自分の足で、自分の考えで、今、確実に一歩進んだ、そう思うんです」
 副住職の言葉に、坂本美咲は手の中のルーンを広げて見つめ、そして。
「姫ちゃ……相原さん」
「はい」
 答えた彼女の前に差し出す。
「返す。判ったんだ私。あなたに追い抜かれたような気がして嫉妬しただけ」
 それは、その場の聴衆には、転入生が溶け込めない自分を追い抜いていった、と受け取られよう。比してレムリアに対する意味は違う。
“2人の仲を引き裂こうと思った”
 レムリアはルーンを受け取り、いったん握り、
「お持ちなさいな」
 手のひらを開いて返す。それは文字はそのまま、ペンダントとして首から下げられる紐がついている。
「おお、鮮やかだ」
 これは副住職。
「この文字、エルハツの意味を知る限り列挙してみて」
「守護、防御、友情……」
 坂本美咲はハッと見開いてレムリアを見た。
「あなたは私たちの友達です。その石はあなたの願いを叶えました。違いますか?」
 坂本美咲の瞳が黒曜石を見たように見開かれ、揺らぎ、涙が浮かび、極寒に放り出されたの如くブルブル震え出す。
「坂本さんどうした?大丈夫か?」
 平沢が立ち上がろうとする。
「違う……」
 坂本美咲はそれだけまず言った。
「すごすぎて震えてるの……すごすぎて……私このルーンお守りにもらったの。護符の意味もあるからって……。でね、さっきのエイヴァーツ。あれは死後の再生とか、再生とか、要はリスタートの意味がある……合わせると友達としてリスタート……」
 坂本美咲はエルハツのルーンを首から下げた。
「ありがとう。離さない。これ、もうずっと離さない」
 坂本美咲は胸元の輝く光を、自分自身ごと、両腕で抱きしめた。

魔法の恋は恋じゃない/終

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【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -23-

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「私、人見知りというか、人と話してて否定されるの怖くて、ずっと、誰かと話そうって状態になるの避けてた。でも……姫ちゃんがクラスに来て、一気にみんなに溶け込んで、私でも話せるかなって思った。何でか知らないけど、姫ちゃんなら話聞いてくれるって思った。そしたら、こんな素敵なイベント設定して仲間に入れてくれた。話せるどころか男の子と普通に話できた。そしたら、今までの自分が、みじめ、って言ったら自分に可愛そうかな、でも、そのときの自分と違う見方や考え方をしてる自分がいるんだ。……って、何言ってるか判んないね。ごめんね」
「イヤ判るよ」
 間、髪を入れずそう言ったのは他ならぬ平沢。
 ハッと目を見開いて彼を見上げる坂本美咲。
「自分を思い知らされるんだ。姫ちゃ、失礼、相原さんと話してると。経験値の差かな。足らなさ、甘さ、気づかされる。その瞬間、違ってるんだ。今までの自分と。魔法だよ。それこそ」
 そのフレーズに、坂本美咲はものすごい勢いでレムリアを見た。
 その目は問う“あなたは一体”。
「本当に魔女だったら仏罰が当たるかと」
 レムリアは自分を指さして冷静にそう応じた。
 と、そこで、副住職が、はっはっは、と、ゆっくり笑った。
「本当に魔女だとしても、仏様は全て判っていらっしゃることでしょう。さておき、今、わたくしは、素敵な瞬間に立ち会わせていただいたかな、と言えると思います。多分、皆さんは、小学生になったときに幼稚園の自分を振り返って、中学生の制服を着て小学生の自分を振り返って、なんて幼かったんだろう、と思った瞬間があると思います。一方で、自分は今はまだ子供の範疇で、大人と比べると大きな差がある、とも感じていると思います。では今後、高校生になって、大学生になって、就職して、振り返ったら気づく、のでしょうか。逆に言うと、就職すれば、成人式を迎えたら、大人になるのでしょうか。違いますね。わたくしが皆さんの言葉を聞いて思ったのは、なすべきことのために動き出す、その瞬間を皆さんお一人お一人が迎えてらっしゃると言うことです。自分はどうしたいのか、そのためにどう動けばいいのか。魔法、という言葉がありましたが、それらは、自分で見つけるもので、自分で獲得して行く生きるための力です。なにがしかの儀式をして与えられたところで、考えて工夫して、修練を積んだ実力とはやはり差があると思います。進君は野球をしているからよく分かると思うが」
 水を向けられた平沢を坂本美咲がじっと見つめる。
 その目線にレムリアは気づく。この娘が“恋”と思っていた“思い”の正体と、今、掴みかけようとしていること。
「僕が言うのはおこがましいんですけど」
 平沢は神妙な面持ちで前置きして。

(次回・最終回)

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