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2023年8月

【理絵子の夜話】城下 -02-

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 理絵子は舌打ちしたくなるのをこらえた。
「女同士の話を盗み聞きするのは趣味悪いぞ当麻(とうま)」
 振り返らずに言う。
 即座に目の前の娘が特異な反応を示すのを感じる。当麻というのは自分のクラスの男子だが、この長坂とは特別な関係にあるようだ。要するにカレシカノジョの関係である。
「何でバレっかなぁ。やっぱ霊能じゃねーの?」
 ヘラヘラしながら教室後ろ手、ドアの影から入ってくる。
 長身長髪でカッコイイ外見だが学ランを着崩してワイシャツなどはみ出ており、みっともない。性格はチャラい。
「違う。聞こえた。耳はすこぶる良くてね。これでもオーディオマニアの端くれ」
「マジかよ」
 半分は超常感覚的知覚の賜物だと思うが、安価なオーディオセットから出てくる音波を「まずい飲み物」みたいに感じてしまうのは困ったものだ。
 さておき当麻が近づいてくる間に大体の背景は把握する。地歴入会者を増やす策はないか。最近この学校怪奇事件が多いからネタにしたらどうか。例の城はどうだろう……。要するにけしかけたのはこの当麻であるらしい。
 で、このコイビト二人共通の認識一つ。黒野理絵子に付いてきて欲しい。……怖いから。
 一番ダメな奴じゃないか。
 ただ、自分が断ったにしても、二人で行くつもりであるらしい。
……行かせたらどうなるんだろう。
「調査の計画は?断層の位置は把握してる?地磁気の異常はどうやって測るの?」
「断層は図書室の地図をコピーして持って行こうかと。後は方位磁石と水平器くらいかな」
 長坂はすらすら答えた。少なくとも可能な範囲で調べることは本気のようだ。
「んで、出来れば風水的な鬼門とか地脈みたいなのと整合取れれば、科学非科学双方から検討が出来るかと。それでぶっちゃけ黒野さんの協力がもらえるとうれしいなって」
 あ、しまった。理絵子の率直な感想。それは口から出任せに近い後付けの理由なのだが。
 断る理由が無くなってしまったではないか。
“二人きり強行”も引っかかる。それでどうなるかの未来が示唆されない。予知能力は持たないが、因果律に従うモノはそれとなく判る。ひっくり返して示唆がないのは“自由意志により決まる”パターンだという認識がある。自分がいたら抑制できた行動が実行に移され取り返しが付かない。
 仕方が無いか。
「私にも来て欲しいと」
「うん」
 少女マンガのヒロインみたいな笑顔。
「文芸部のネタが増えるでしょ」
 勝利を確信、と少しダークな心理。この娘が学級委員に収まり込んだ経緯がなんとなく見える。
 仕方ない。
「判りました。けど、条件一つ。高千穂登与(たかちほとよ)ちゃんの同行を許すこと。いいですか?」

(つづく)

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【理絵子の夜話】城下 -01-

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“地理歴史同好会”が文芸部を訪ねて来たのは夏休み明けて程なく。
「例の城を取り上げようと思って」
 会長の女子生徒が、文芸部の部長である彼女の目の前に差し出したのは雑誌記事である。彼女ら住まう町外れの山林にある戦国時代の廃城。そこに怨霊が出る、という見出し。要するにオカルト雑誌である。
 彼女は雑誌に目を落とす。長い髪がはらりと流れて左右の頬を隠す。ページを数葉めくって。
「地歴(ちれき)ってそういうの興味本位で扱うようになったの?」
 会長女子に上目遣いで尋ねる。ちょっと怖い目になったかも知れない。会長女子は少し見開いた瞳を見せた。
「え?違う違う。逆に単純にガチで調べて、最近多いじゃん?遊び半分の肝試し。そういうのを諫めたい。そういうのでもヤバいというか、失礼になるのかなって。そういうの詳しいの黒野(くろの)さんかなって」
 彼女をさん付けで呼ぶ会長女子は2つ隣のクラスの学級委員で名字は長坂(ながさか)。彼女黒野理絵子(りえこ)もまた学級委員であり、応じた集まりがあって、逆に言えばつながりはそこだけ。だから、さん、が付く。ちなみに“同好会”は、人数など、部としての条件が揃っていない活動に対する呼称で、固定された部室と部費が認められない。ただし、文化祭に参加は出来る。
 彼女理絵子は雑誌を返して。
「ネットで出てくる、図書館で文献を読む、それ以上の情報を現地へ行って得ようってこと?」
「地学的考察ってあまり見ないから。断層があるとか、地磁気が乱れているとか、そういう、人間の平衡感覚に影響する要素が他と違うことで、幽霊伝説に繋がっているかも、と思って。そういうのは興味本位や昔の不幸を笑うわけじゃないから問題ないよねって確認」
 用意していた答えだな、と理絵子は判ってしまった。
 オカルト的見地から問題ないか確認のために自分を訪ねたのは間違いではない。ただし、自分に霊能があることは公言していない。
 怪奇事件を解決した経緯があって、ほぼほぼ“その手の者”と見られていると判っているが、認めると色々とややこしいので“文芸部の創作ネタとしてその手の知識を持っている”ことにしてある。
 だから長坂の底意は見えてしまっている。それで記事書いてセンセーショナルなキャッチコピーになるだろう。入会希望者増えたらいいな。
 ちなみに理絵子自身は自分の能力駆使してその城跡を訪れたことはない。逆に何かあるという示唆も無い。“そっとしておいて”という弱い意図は受け取る。
 悲劇の地に高感度の受信機持って踏み込むとか不躾の極致であろう。
 と、こちらを伺う目線を背後に感じる。

(つづく)

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今後の予定など

レムリアのお話終わりまして向こうしばらくの話。

・【理絵子の夜話】「城下」(8/5土開始。隔週土曜更新)
・【妖精エウリーの小さなお話】「ずっと友達」

単発書きたいんだけどねぇ。降りてきませんねぇ。

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