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【理絵子の夜話】城下 -02-

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 理絵子は舌打ちしたくなるのをこらえた。
「女同士の話を盗み聞きするのは趣味悪いぞ当麻(とうま)」
 振り返らずに言う。
 即座に目の前の娘が特異な反応を示すのを感じる。当麻というのは自分のクラスの男子だが、この長坂とは特別な関係にあるようだ。要するにカレシカノジョの関係である。
「何でバレっかなぁ。やっぱ霊能じゃねーの?」
 ヘラヘラしながら教室後ろ手、ドアの影から入ってくる。
 長身長髪でカッコイイ外見だが学ランを着崩してワイシャツなどはみ出ており、みっともない。性格はチャラい。
「違う。聞こえた。耳はすこぶる良くてね。これでもオーディオマニアの端くれ」
「マジかよ」
 半分は超常感覚的知覚の賜物だと思うが、安価なオーディオセットから出てくる音波を「まずい飲み物」みたいに感じてしまうのは困ったものだ。
 さておき当麻が近づいてくる間に大体の背景は把握する。地歴入会者を増やす策はないか。最近この学校怪奇事件が多いからネタにしたらどうか。例の城はどうだろう……。要するにけしかけたのはこの当麻であるらしい。
 で、このコイビト二人共通の認識一つ。黒野理絵子に付いてきて欲しい。……怖いから。
 一番ダメな奴じゃないか。
 ただ、自分が断ったにしても、二人で行くつもりであるらしい。
……行かせたらどうなるんだろう。
「調査の計画は?断層の位置は把握してる?地磁気の異常はどうやって測るの?」
「断層は図書室の地図をコピーして持って行こうかと。後は方位磁石と水平器くらいかな」
 長坂はすらすら答えた。少なくとも可能な範囲で調べることは本気のようだ。
「んで、出来れば風水的な鬼門とか地脈みたいなのと整合取れれば、科学非科学双方から検討が出来るかと。それでぶっちゃけ黒野さんの協力がもらえるとうれしいなって」
 あ、しまった。理絵子の率直な感想。それは口から出任せに近い後付けの理由なのだが。
 断る理由が無くなってしまったではないか。
“二人きり強行”も引っかかる。それでどうなるかの未来が示唆されない。予知能力は持たないが、因果律に従うモノはそれとなく判る。ひっくり返して示唆がないのは“自由意志により決まる”パターンだという認識がある。自分がいたら抑制できた行動が実行に移され取り返しが付かない。
 仕方が無いか。
「私にも来て欲しいと」
「うん」
 少女マンガのヒロインみたいな笑顔。
「文芸部のネタが増えるでしょ」
 勝利を確信、と少しダークな心理。この娘が学級委員に収まり込んだ経緯がなんとなく見える。
 仕方ない。
「判りました。けど、条件一つ。高千穂登与(たかちほとよ)ちゃんの同行を許すこと。いいですか?」

(つづく)

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