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【理絵子の夜話】城下 -01-

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“地理歴史同好会”が文芸部を訪ねて来たのは夏休み明けて程なく。
「例の城を取り上げようと思って」
 会長の女子生徒が、文芸部の部長である彼女の目の前に差し出したのは雑誌記事である。彼女ら住まう町外れの山林にある戦国時代の廃城。そこに怨霊が出る、という見出し。要するにオカルト雑誌である。
 彼女は雑誌に目を落とす。長い髪がはらりと流れて左右の頬を隠す。ページを数葉めくって。
「地歴(ちれき)ってそういうの興味本位で扱うようになったの?」
 会長女子に上目遣いで尋ねる。ちょっと怖い目になったかも知れない。会長女子は少し見開いた瞳を見せた。
「え?違う違う。逆に単純にガチで調べて、最近多いじゃん?遊び半分の肝試し。そういうのを諫めたい。そういうのでもヤバいというか、失礼になるのかなって。そういうの詳しいの黒野(くろの)さんかなって」
 彼女をさん付けで呼ぶ会長女子は2つ隣のクラスの学級委員で名字は長坂(ながさか)。彼女黒野理絵子(りえこ)もまた学級委員であり、応じた集まりがあって、逆に言えばつながりはそこだけ。だから、さん、が付く。ちなみに“同好会”は、人数など、部としての条件が揃っていない活動に対する呼称で、固定された部室と部費が認められない。ただし、文化祭に参加は出来る。
 彼女理絵子は雑誌を返して。
「ネットで出てくる、図書館で文献を読む、それ以上の情報を現地へ行って得ようってこと?」
「地学的考察ってあまり見ないから。断層があるとか、地磁気が乱れているとか、そういう、人間の平衡感覚に影響する要素が他と違うことで、幽霊伝説に繋がっているかも、と思って。そういうのは興味本位や昔の不幸を笑うわけじゃないから問題ないよねって確認」
 用意していた答えだな、と理絵子は判ってしまった。
 オカルト的見地から問題ないか確認のために自分を訪ねたのは間違いではない。ただし、自分に霊能があることは公言していない。
 怪奇事件を解決した経緯があって、ほぼほぼ“その手の者”と見られていると判っているが、認めると色々とややこしいので“文芸部の創作ネタとしてその手の知識を持っている”ことにしてある。
 だから長坂の底意は見えてしまっている。それで記事書いてセンセーショナルなキャッチコピーになるだろう。入会希望者増えたらいいな。
 ちなみに理絵子自身は自分の能力駆使してその城跡を訪れたことはない。逆に何かあるという示唆も無い。“そっとしておいて”という弱い意図は受け取る。
 悲劇の地に高感度の受信機持って踏み込むとか不躾の極致であろう。
 と、こちらを伺う目線を背後に感じる。

(つづく)

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