【理絵子の夜話】城下 -05-
なんじゃそら。ええいキリがない。
「いいかげん恥ずかしいので本題に入っていいですか。てか、仕切るの私?」
理絵子は促した。
「え?あ、ごめんごめん。えーと」
長坂がリュックを下ろして中から遊歩道の地図を出して広げる。
「基本的にはこの“1号路”の途中から分岐している城址周回コースに行きます。ぐるっと回っているので、リアルタイムで狂いが出ないか見るほか、真北を基準に16方位各所で磁針の振れと伏角(ふっかく)、それと」
スマートホンを取り出す。
「環境音を録音します。変な音や、音は無かったのに後から聞いたらノイズが入っていたとか、そういうことは起こらないか」
「伏角ってどうやって測るの?そもそもコンパスの針って伏角考えてバランス取るように作られてない?」
理絵子は聞いた。方位磁石は地球の南北を最短距離で示そうとするので、日本で使うと地面に突っ込む方向を針が指す。その角度が伏角だが、これを防止するため北側が軽く作ってある、はず。
「うん、なので、バランスが崩れた分を測る予定。水平器で水平取って、その上に載せて写メ撮って後でパソ画面上で確認」
「あのー、何言ってっか全っ然わかんないんだけど」
軽薄、と言って良いだろう、ニヤニヤした顔の当麻に長坂がキッと強い目を向けた。
「イヤなら帰っていいよ」
当麻の口が小さく開く。衝撃と驚愕がテレパス娘たちの心を捉える。
それは自ら意に反した強い言葉になったようだ。長坂は言ってから自分の態度にハッと気付いたようで、一旦その目を見開き、小さく笑った。
「ごめん」
「え、いや、ちょっとびっくりしただけ」
真面目に話していたところを小馬鹿にされて怒った。長坂の反応を説明する文言はそうなろうか。いわゆる“男のデリカシーの無さ”としておく。
ともあれ、各自説明に納得し、地図等を仕舞い、方位磁針、およびスマートホンのコンパスアプリを起動して出立する。まずは尋常にハイキングコースを上がって行く。そこは山頂の山小屋や展望台へ物資を届けるトラックも通れるよう、コンクリートで舗装されており、山道という趣は無い。町中同然の服装、足下の人々が歩く中、リュックも背負って少し“ガチ”っぽい彼らは目立つ方。最も、しっかり登山靴を身につけ、練習かあるいは山頂から遥か大阪箕面(みのお)まで続く自然歩道を跋渉という感じの方は稀に見る。
5分も歩けば勾配がきつくなり、程なく九十九折りの区間。
小さな男の子が親に引っ張られ気味。
「まだ?」
「歩くって言ったのはよう君でしょ。まだまだまだまだだよ」
「え~!」
標高にして何十メートルも登っていないのではないか。
最近のコメント