【理絵子の夜話】城下 -03-
「え?」
「えっ?」
その名を出したら二人の瞳が見開かれ、眉根が曇り、拒絶と恐怖が表情に表れた。
前述した怪奇事件の当事者である。霊能者を公言し、魔方陣をこさえて悪霊を召喚した。
女の自分が見ても目が勝手に追いかけてそのまま離せなくなるような美少女だが、霊能駆使して言い当てをするので怖がられている。ちなみにその悪霊は他ならぬ理絵子に対してけしかけられたものだったが、和解してしまえば最高の理解者。
「彼女ガチの霊能者だし」
「それは……」
「そのくらい怖いことに首突っ込もうとしている自覚はある?イヤならお断り。二人で行くならご自由に。それこそ五感が何かおかしくなった時、頼れるのは第六感だけだと思うけど」
ああこの選択肢は用意されたものだと理絵子は知った。天啓・示唆という奴だ。
二人の間で興味と恐怖が逡巡を織りなす。ちなみにこの時点で当の高千穂登与は気付いている。自分と常時テレパスでコンタクトしていいよとしてあるので(応じて孤独な立場であるため)、そのチャネルを通じて状況は伝わっている。
「黒野さんひとりでは?」
「怖いもん」
妥協を蹴る。実際には自分は密教・神道系の流儀やら呪文(真言)に近しく、比して彼女はロザリオをお守りにしている。二人がかりの方が万全というのが真意。
戦国時代の城だからこそ、である。魔は魔だ。いかに裏を掻くかを考えたら、和風である必要はどこにも無い。
果たして長坂が目を閉じてうーんと唸り、見開いた。
「判った。高千穂さんも一緒に」
「え?知(とも……)」
断を下した長坂知に当麻が驚いて目を向ける。
「マジか?」
「二人とも来てくれるなら安心じゃん」
「おう……そうだ、けど」
そこで理絵子は小さく笑って見せた。
何のことはない、当麻には“知と二人きり”という下心があったのだ。
「別に女三人で行ってもいいけど」
意地悪。
「あ、いや、いいよ。行く行く。背丈や力仕事が必要なことだってあるかもじゃん」
彼の身長は172センチ。
思惑と駆け引きを全部見ている自分に若干の嫌悪。
「最後の確認だけど本当に行くのね?ただし、普通に遊歩道とその周辺に限るよ」
若干、嵌められたのは自分だという気もするが。
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