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【理絵子の夜話】城下 -07-

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 追いかけて走り出す。ハイキングコースは橋を渡るが、その先が暗がりだったのが避ける心理を呼んだか、橋の手前を右に向かってしまう。
 そこは道ではない。
「おい知!知ってば!」
 追いかける声も足音も、木立に吸い込まれるように消えて行く。
「あらまぁ」
 残された二人は同時に同じことを言った。
 とりあえずキョトンとして見えるトラブルの“張本人”、黒緑に輝くアオダイショウを見やる。
「君のせいだぞ」
 舌をペロペロ。ヘビを忌避する向きは多いが、トカゲと顔立ちは同様である上、アオダイショウはどちらかというと臆病な類い。ただ、大型の生き物であることも手伝い、知性の光をその目に宿す。
 そして、この蛇は、古来ヘビに託されたとされる伝承と同様、偶然落ちてきたわけではない。
 “神の遣い”だ。
「腕に巻き付きなさい。日が暮れる」
 理絵子は2メートルはあろうかという堂々たる大蛇の胴体を持ち上げると特に抵抗しない。
「重いよあんた」
 マフラーよろしく首に掛け、左腕に首、右側に尻尾。
「アスクレピオスみたい」
 “へびつかい座”星座絵に描かれる医学の神。応じてWHO(世界保健機関)の紋章は蛇がモチーフ。
「私おとめ座だし。で?どっち?御遣いさん」

「とりあえずそっちでしょ」
 言わずもがな走り去った二人の方向。
「道案内してよ。あー黄色いの出しちゃダメ!あたし怖い?」
 アオダイショウは恐怖を感じると特有の臭気を有する黄色っぽい体液を分泌する。

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(アオダイショウの幼蛇。赤丸内が分泌液)

「マーキングかも」
「所有物って?恐怖マンガだね」
 さて橋を逸れて続く川沿いの道に見える構造物は、自然堤防と書いた方が適切か、適度に泥濘んでおり、彼らのものとおぼしき足跡がハッキリ確認できる。
 が、100メートルほど進んだところでざぁざぁと水の流れる音が聞こえ始め、程なく小規模な滝に出くわして足跡は途切れた。
 目に見えぬ門で閉ざされたかのようなそこに、途方に暮れたような背中があり、彼女らを振り向く。
「ああ、黒野……何それさっきの蛇じゃんよ!」

(つづく)

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