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【理絵子の夜話】城下 -09-

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「うわっ!」
 彼は驚いて尻餅をついた……のだが、それが視界と視点の変化をもたらし、“滝”の見え方を変えたと二人は気付いた。
「上から見ると深そうに見えたけど斜めから見るとそうでもないな。ってか、寒い」
 理絵子と登与は顔を見合わせた。二人の身長は150センチ台前半。
 目の位置と角度で見え方が変わる、なにがしか、“だまし絵”的な地形、岩等の配置になっているのだろうか。
「でも、飛び降りるには高すぎる……どうやって降りたんだろう知……」
 問題は降りる方法。長坂は自分たちより運動神経がある方だと思うが、パニック状態で木の根を伝って降りるという冷静な判断が出来たのだろうか……。
「これ、階段だよね」
 と、しゃがみ込んだ登与が指さす。しかし理絵子には見えていない。
 二人で違うなら霊的なものではない。理絵子は同様にしゃがんでみた。
 当麻の言った“寒い”の意味を知る。しゃがむと氷穴のような冷たい空気にさーっと包まれる。
 かくしてその冷たい空気の中に身を沈めると、崖状に見えた部分は、勾配こそ急ながら、明らかに人造とおぼしき階段がしつらえられ、踏み板代わりの石が敷いてある。
「これは……」
 二人は顔を見合わせ、立ち上がった。ある高さまで視点が上がると階段は途端に平面状の板の重なりに見える。それは湯船で水面直下の指が短く見える現象を思い出させた。あるいはグラスに挿したストローが飲み物と空気の境目で折れ曲がって見える。
「屈折?」
 立ったり座ったりしてみると、階段が見えたり見なくなったり。
 温度の違う空気のせいか。自分たちの腰の高さに存在する光学的境界線。
「なるほど」
「そういう見立てで良さそうだね。上下混ざるとハッキリしなくなるし。酸素が薄いとかないよね」
 命の危機があれば超感覚がそうと囁く。
 立ったり座ったり、あげくにニヤニヤ笑う二人に当麻が当惑。
「あの……」
「まぁ、私らに付いてきな」
 彼は寝そべらないとその現象は生じないだろう。説明するのも面倒くさいので二人はそのまま階段を降り始めた。
「黒野、お前消えてくぞ!」
「来れば判るよ、おいで」
 まるで幼い弟である。二人が“消えた”せいか心細くなったようで、遅れて足が伸びてきた。
「え?足が付く」
「だから大丈夫だって」

(つづく)

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