【理絵子の夜話】城下 -08-
当麻は近づいてこようとし、眉間に皺を寄せ、足を止めた。ヘラヘラした男であるが蛇は苦手らしい。防空識別圏のようなモノを設定したと判じる。
「懐かれてしまってね。置いておくと後から来た人が驚くだろうし。んで?知ちゃん見失ったと」
「え?あ、うん」
当麻はしょげた。格好いいとこ見せたかったのだろうが真逆。
「下は?」
滝の下。上にいなければ下を探すのが道理だろう。
「見た限りでは見つからないんだ」
「見えないだけかも知れないじゃん」
「どうやって降りるんだよ」
「へ?」
「え!?」
理絵子はそこで彼我に認識の違いがあると理解した。自分にははみ出た木の根をロープ代わりに降りて行ける程度のところに、滝から落ちた後の川の流れが見えている。
〈彼にはそうじゃないよ〉
登与からテレパシー。
華厳の滝とまでは言わぬが飛び降りたら死ぬ程度の高さに見えているよう。
違いをもたらしている因子は。
「お前か」
理絵子は蛇を見た。
「登与ちゃん連れてってもいいか」
舌をペロペロ。……示唆。その気があり勇気があるなら私に触れよ。
それは“お告げ”なのだが、自分が言ってもいいものか。
〈ああ、私が。霊能者ですから〉
登与は当麻に向かってビシッとばかりに指さしした。
「な……」
「真面目に聞くかどうかは君次第だ。蛇神様からお告げを頂戴している。君が彼女を思うなら我が身に触れて勇気を示せ。ならば再び並び歩く日が来る」
感情を殺した声で上意下達。巫女の託宣。バッチリ決まったと理絵子は思った。最も、彼が同行するがするまいが自分たちで行くだけなのだが。少なくも彼がここで逃げ帰ればこの二人の未来は無い。因果律。
「マジか……」
逡巡。ただ、考える時間を与えるほどヒマでは無い。
「んじゃ私ら行くから」
「わかった。わかったよ。触ればいいんだろ」
果たして防空識別圏を越えて伸びてきた指先にヘビの尻尾を差し出すと、
指先でチョイ。
「冷たっ!」
氷にでも触れたように指を引いた途端、ヘビは鎌首をもたげ、口を開いて威嚇。
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