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2023年12月

【理絵子の夜話】城下 -11-

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「おー、今日は多いなあ」
 年配の男性で歯が抜けてる感じの発音。
「さっきの娘ゴの知り合いかえ?」
 理絵子は登与と顔を見合わせた。なら、話は早い。
「ええ、はい。滝から落ちたようで。迎えに参りました。ご迷惑をおかけしております」
 応じると、その草本の盛り上がりの向こうから農機具のクワを背にした男性が現れた。頭ははげ上がり……否否、ちょんまげ。首には手ぬぐい。適切な表現か判らぬが“昔話のお百姓さん”というのが理絵子の率直なイメージ。
 男性は近づいてきた。かなり小柄。
「こらまたべっぴんなおなごだ!」
 理絵子と登与を交互に眺め、目に見えて頬を赤くする。
「恐れ入ります」
 これに対して。
「あんだおめえは」
 男性の表情がにわかに厳しくなり、クワを構えて戦闘態勢。
 二人の背後の当麻のこと。
「羽柴(はしば)のモンかおんどりゃ」(訳:羽柴の手先かお前は)
 男性の発言にべっぴん二人は目を見合わせた。
「ダンナさん失礼ですが北条殿(ほうじょうどの)の……」
「いかにも。城は無くても息災じゃ。誰にも渡さんぞ」
 疑念を会話で聞き出すのが面倒くさい。理絵子はテレパシーを使った。あまり褒められた使い方ではないが。
 戦国時代、関ヶ原の前。
 豊臣方の総攻撃に遭って全滅皆殺しにされたと伝わっているが、実際は城内から井戸穴を通じて降りたところここへ繋がっており、城内のかなりの数が難を逃れた。血で川の水が赤く染まったと言われているが、実際にはここの赤土を流し、噂を広めた。
 以降400年以上、ここで地下の生活。
 地下でも光が入ってくるのは。
 理絵子は透視を試みる。ここはドーム球場が幾つも入るサイズの超巨大石英ノジュールで、内部が空洞になったもの。表面をタマゴの殻のように覆う石英・水晶を通して光は柔らかく入ってくる。所々の“穴”は幾度かの関東大地震で崩れて出来たもの。
 登与と共有。彼女の目が見開かれる。
「当麻君は、悪いけど状況が明らかになるまでちょっと静かにしててね」
 これは登与。
「70年前にかなりの数の人間が調査に入り込んだと思いますが。その時のことは伝わっていますか?」
 理絵子は訊いた。この空間が見つかった話を知らぬ。
「それなら、ちょうど大きななゐ(地震)があってな、彼奴等の掘ってきた穴は天井が崩れて皆埋まったと聞いている」

(つづく)

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【理絵子の夜話】城下 -10-

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 とはいえ階段自体はかなり急である。理絵子は公園にあった滑り台を逆に上って階段から降りてきて遊んだことを思い出した。そのくらいの“急”だ。
 足が地に着いた。
 見上げるとプールの底から空を見ているよう。明らかに“そこ”と“ここ”で温度を含む空気の組成が違う。長坂の持ってきた機械で何かしら測れないか。
「なんだ、すぐ終わりじゃん」
 見下ろした当麻が飛び降りた。
 そして、3人揃ったところで、滝を背にする形で向きを変えると。
「これは……」
 理絵子が思い出したのは、SFに出てくるスペースコロニー。
 驚くなと言う方がムリであろう。簡単にはサッカースタジアムが幾つも並べられそうな大空間を有する洞窟であり、所々穴が開いて上層と繋がっているようで、陽光が導入されて“深い森の中”程度の明るさが確保されている。
 自分の街の至近にこんな構造体があるなどどこの書物でも見たことはない。ただ。
「これって……」
「帝国陸軍多摩地下大本営」
 理絵子は、自分がいちばん納得できる見解を口にした。
 描写すべき内容が多い。足下は赤土、光の入る部分には“残された鎮守の森”を想起させる草木の生えた盛り上がり。この空間では半日村どころではなく、光は貴重。植物を育て古代太陽神のようにお祀りする……あり得るだろう。
 足下より流れ出る泉を利用する水路が作られ流れる音が聞こえる。すなわちこの空間は集落として活用され、水路を追うと明るい部分を中心に田畑にされてあり、規則正しく植わった緑色が見える。そして驚くべきか、所々に小さな池が出来ているが、これはどうやら導入された陽光を反射する“水鏡”として使っているようで、応じてあまねく光が届いているようだ。畑の周囲には木造平屋の家屋がぽつぽつ並ぶ。その造作は昔話のあばら屋のようで、応じて電気やガスなどの現代インフラの存在は見えない。この中でいにしえのシステムで完結する村落と確信させる。
 アオダイショウがしきりに首を地面に伸ばし、どうやら降りたがっているようなので腕を下ろすと足下にするり。ニョロニョロ動いて水に身体をつける。行水か。
 逃げない。付き従うという意思があるようなのでそのままにしておく。
「ダイホンエイ?」
 当麻が疑問形。
「太平洋戦争当時、軍の本部、大本営を東京郊外に移転しよう、それは地下に作ろうという計画があって、実際トンネルを掘った。でも、急に放棄されて、戦後も何の調査も入らず、そのうち場所すらも不明になった。甲州街道ってこの周辺だけアスファルトじゃなくてコンクリートでしょう。あれは滑走路として使えるようにと設計された結果」
「あ、それ聞いたことある。でもウソというか誰かが小説のネタに書いたのが広まったって聞いたけど……」
 登与も与り知らぬことのようだ。
 人の気配。

つづく

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