【理絵子の夜話】城下 -11-
「おー、今日は多いなあ」
年配の男性で歯が抜けてる感じの発音。
「さっきの娘ゴの知り合いかえ?」
理絵子は登与と顔を見合わせた。なら、話は早い。
「ええ、はい。滝から落ちたようで。迎えに参りました。ご迷惑をおかけしております」
応じると、その草本の盛り上がりの向こうから農機具のクワを背にした男性が現れた。頭ははげ上がり……否否、ちょんまげ。首には手ぬぐい。適切な表現か判らぬが“昔話のお百姓さん”というのが理絵子の率直なイメージ。
男性は近づいてきた。かなり小柄。
「こらまたべっぴんなおなごだ!」
理絵子と登与を交互に眺め、目に見えて頬を赤くする。
「恐れ入ります」
これに対して。
「あんだおめえは」
男性の表情がにわかに厳しくなり、クワを構えて戦闘態勢。
二人の背後の当麻のこと。
「羽柴(はしば)のモンかおんどりゃ」(訳:羽柴の手先かお前は)
男性の発言にべっぴん二人は目を見合わせた。
「ダンナさん失礼ですが北条殿(ほうじょうどの)の……」
「いかにも。城は無くても息災じゃ。誰にも渡さんぞ」
疑念を会話で聞き出すのが面倒くさい。理絵子はテレパシーを使った。あまり褒められた使い方ではないが。
戦国時代、関ヶ原の前。
豊臣方の総攻撃に遭って全滅皆殺しにされたと伝わっているが、実際は城内から井戸穴を通じて降りたところここへ繋がっており、城内のかなりの数が難を逃れた。血で川の水が赤く染まったと言われているが、実際にはここの赤土を流し、噂を広めた。
以降400年以上、ここで地下の生活。
地下でも光が入ってくるのは。
理絵子は透視を試みる。ここはドーム球場が幾つも入るサイズの超巨大石英ノジュールで、内部が空洞になったもの。表面をタマゴの殻のように覆う石英・水晶を通して光は柔らかく入ってくる。所々の“穴”は幾度かの関東大地震で崩れて出来たもの。
登与と共有。彼女の目が見開かれる。
「当麻君は、悪いけど状況が明らかになるまでちょっと静かにしててね」
これは登与。
「70年前にかなりの数の人間が調査に入り込んだと思いますが。その時のことは伝わっていますか?」
理絵子は訊いた。この空間が見つかった話を知らぬ。
「それなら、ちょうど大きななゐ(地震)があってな、彼奴等の掘ってきた穴は天井が崩れて皆埋まったと聞いている」
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