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【理絵子の夜話】城下 -10-

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 とはいえ階段自体はかなり急である。理絵子は公園にあった滑り台を逆に上って階段から降りてきて遊んだことを思い出した。そのくらいの“急”だ。
 足が地に着いた。
 見上げるとプールの底から空を見ているよう。明らかに“そこ”と“ここ”で温度を含む空気の組成が違う。長坂の持ってきた機械で何かしら測れないか。
「なんだ、すぐ終わりじゃん」
 見下ろした当麻が飛び降りた。
 そして、3人揃ったところで、滝を背にする形で向きを変えると。
「これは……」
 理絵子が思い出したのは、SFに出てくるスペースコロニー。
 驚くなと言う方がムリであろう。簡単にはサッカースタジアムが幾つも並べられそうな大空間を有する洞窟であり、所々穴が開いて上層と繋がっているようで、陽光が導入されて“深い森の中”程度の明るさが確保されている。
 自分の街の至近にこんな構造体があるなどどこの書物でも見たことはない。ただ。
「これって……」
「帝国陸軍多摩地下大本営」
 理絵子は、自分がいちばん納得できる見解を口にした。
 描写すべき内容が多い。足下は赤土、光の入る部分には“残された鎮守の森”を想起させる草木の生えた盛り上がり。この空間では半日村どころではなく、光は貴重。植物を育て古代太陽神のようにお祀りする……あり得るだろう。
 足下より流れ出る泉を利用する水路が作られ流れる音が聞こえる。すなわちこの空間は集落として活用され、水路を追うと明るい部分を中心に田畑にされてあり、規則正しく植わった緑色が見える。そして驚くべきか、所々に小さな池が出来ているが、これはどうやら導入された陽光を反射する“水鏡”として使っているようで、応じてあまねく光が届いているようだ。畑の周囲には木造平屋の家屋がぽつぽつ並ぶ。その造作は昔話のあばら屋のようで、応じて電気やガスなどの現代インフラの存在は見えない。この中でいにしえのシステムで完結する村落と確信させる。
 アオダイショウがしきりに首を地面に伸ばし、どうやら降りたがっているようなので腕を下ろすと足下にするり。ニョロニョロ動いて水に身体をつける。行水か。
 逃げない。付き従うという意思があるようなのでそのままにしておく。
「ダイホンエイ?」
 当麻が疑問形。
「太平洋戦争当時、軍の本部、大本営を東京郊外に移転しよう、それは地下に作ろうという計画があって、実際トンネルを掘った。でも、急に放棄されて、戦後も何の調査も入らず、そのうち場所すらも不明になった。甲州街道ってこの周辺だけアスファルトじゃなくてコンクリートでしょう。あれは滑走路として使えるようにと設計された結果」
「あ、それ聞いたことある。でもウソというか誰かが小説のネタに書いたのが広まったって聞いたけど……」
 登与も与り知らぬことのようだ。
 人の気配。

つづく

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