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2024年1月

【理絵子の夜話】城下 -13-

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 その“娘”の供給源こそは、ここに迷い込んだ若い女で、強制的な婚姻を拒否した者。
 ここの存在意義は尊重するが、そぐわないしきたりは断ち切らねばならぬ。
 自分たちはそのために遣わされたのだ。理絵子の認識。
「一緒に来なさい。置いて行かれたら二度と帰れないと思いなさい」
 当麻に命ずる。
「は、はい」
 しゃちほこばった男の子である。少女の肩口に大蛇が鎌首もたげ……まぁ、不気味さと恐怖しか与えまい。
 霊能者疑惑とかどうでもいい。ここから4人で帰るのだ。
 男性を追う。ついて行くのは罠かも知れぬ。ただ、蛇背負ってる自分に手出しはしまい。
 登与と二人で当麻を挟んで歩く。彼より心配なのは彼女だ。
 長坂知はどこでどんな状態にあるのか。
 緩い坂を下りて平地の部分を行く。四角四面に整地されており、見上げると透明な洗面器を裏から見ているよう。
「裏多摩湖(うらたまこ)の底だよここ」
「大地底国じゃん」
 その湖は水深の割に水面の色が深く色濃く、何か“裏”があるのでは、という言い伝えから名付けられた、と聞いた。
 日差しが入って水は充分。農作業には困らない。
「タンパク質は?」
 理絵子は肩口を指さした。ヘビがシャーッと擬音を付したくなるように口を開けて威嚇する。
「あんた食うってんじゃないよ。あんたが出入りできるってことはそこそこに動物入るでしょってこと。ここで何か食ってる?」
 更に田んぼにはカエルの声が聞こえ、田んぼ沿いの流れには小魚の姿も見える。
「外へ出る理由も意味も無いか」
「ここでさぁ」
 男性は集落の中心であろう、大きく普請された寺とおぼしき建物に3人を案内した。
「おお、田悟さ(たごさく、の略らしい)……あんだ、連れてきちま……へ、蛇神様かえ?」
 寺の本堂、であろう、その建物の中から出てきた白髪の男性が目を見開いた。
 示唆、犬神の郷で呼ばれた名を言うと時代劇の印籠状態。
 すなわち無敵スキル。
「わたくしは畢星(ひつのほし)の理絵子と申します。私どもの仲間が迷い込んで恐らくはけがをしてお世話になっているかと」
 果たして案内してきた男性、その白髪の男性、更には本堂にいた男女がまるでほじくられた巣のアリのごとくワラワラと出てきた。
「理絵子様だと」
「道理で犬神をご存じのはずだ」
「蛇神様とご一緒だ。天罰じゃ。祟る。祟る、控えよ」
 理絵子は登与と顔を見合わせた。

(つづく)

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【理絵子の夜話】城下 -12-

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「東南海地震か」
 登与が呟いた。1944年12月7日。戦争末期の出来事で辻褄は合う。南海トラフの一種で、震源の遠い関東において顕著な被害があったと聞かぬが、多摩地域では旧震度階級で6だった地域もあったという。
 軍は結局多摩地区の地下に大本営を移設する計画を中止した。
 それ以後も、ずっとここで。
「ここにお住まいの皆さんは外へ出ることはないのですか?」
 理絵子は訊いた。400年以上、外界とコミュニケーションを絶つとか不可能と思うが。ただまぁ、彼らに電子工学ベースの21世紀社会に生きているという認識はないようだ。
 一方で、閉鎖空間だと生物学的にハプスブルク家のような問題が生じると思うが。
「食って行ける。一族皆息災だ。どこかへ行く必要があるらかね?」
「なるほど」
 ここで理絵子は背筋が寒くなる認識を受け取る。
“お前ら帰さないぞ”
 すなわち。
“新しい血脈となれ”
 とはいえ。
「それで、私どもがここへお邪魔した理由ですが、その、私どもと同じようなズロッとした格好の娘ゴを迎えに来たのですが」
 すると男性の表情がにわかに厳しくなった。
「帰る道はないし、帰さんぞ。蛇神様の施しであらっしゃるからな」
「……それさっきの蛇!」
 当麻が声を上げるが。
「お黙り!」
 娘二人は同時に声を荒げてしまった。
 驚き、そして悲しそうな当麻の顔。
「君の出る幕じゃない」
 理絵子は強く制した。当麻は目を見開き、おびえたように小さく震え、頷いた。
「よろしい。さて旦那さん、その蛇神様は私と共にあるのですが」
「なんと?」
 しゃがんで腕を下ろすとひやりとした重たいものがその腕へ登ってくる。
「蛇神様が……これはこれは……」
「そしてここは犬神の里とも繋がっていますね。出していただけないというならそちらから帰るのみです。さぁどうされますか?一緒に来た女の子を返していただけますか」
「犬神様とも……」
 男性は振り上げたクワを諦めたように下ろした。
「従いますだ。こちらでさぁ」
 男性はへりくだった態度を見せ、手を下に“どうぞこちらに”の構えを見せ、歩き出した。
 その犬神云々は縁あって理絵子は登与と訪れている。隣県の山奥に電気も通らぬ隠れ里があり、犬神の里と呼ばれている、人身御供のしきたりが残っていた。

(つづく)

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予定とか計画とか

グレゴリオ暦で年が改まったので(なんやねん)。

現在進行中は理絵子の夜話「城下」。

で、彼女の話で長いのをひとつ載せ忘れていたのですよw

「教員が逮捕される猟奇的事件が発生、伴って彼女が霊能者であるという噂が立った。事件の背景にいわゆる〝学校の怪談〟があり、解決に理絵子が一枚噛んだからだ。」 

この「一枚噛んだ話」そのもの。

理絵子の夜話「空き教室の理由」

原稿用紙で200枚くらいあるので、隔週掲載だと軽く死ぬので毎週更新を計画。それなりに労力食うので↓のレムリア挟んでめどが立ったら。

レムリアのお話は「ほぼほぼ」状態が2篇あって順番に。

魔法少女レムリアシリーズ「アルカナの娘」「14歳の密かな欲望」

エウリーの短いので、どこかで一服、みたいな感じで

妖精エウリーの小さなお話「ずっと友達」

以上、見えてる範囲はこんな感じで。

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