【理絵子の夜話】城下 -13-
その“娘”の供給源こそは、ここに迷い込んだ若い女で、強制的な婚姻を拒否した者。
ここの存在意義は尊重するが、そぐわないしきたりは断ち切らねばならぬ。
自分たちはそのために遣わされたのだ。理絵子の認識。
「一緒に来なさい。置いて行かれたら二度と帰れないと思いなさい」
当麻に命ずる。
「は、はい」
しゃちほこばった男の子である。少女の肩口に大蛇が鎌首もたげ……まぁ、不気味さと恐怖しか与えまい。
霊能者疑惑とかどうでもいい。ここから4人で帰るのだ。
男性を追う。ついて行くのは罠かも知れぬ。ただ、蛇背負ってる自分に手出しはしまい。
登与と二人で当麻を挟んで歩く。彼より心配なのは彼女だ。
長坂知はどこでどんな状態にあるのか。
緩い坂を下りて平地の部分を行く。四角四面に整地されており、見上げると透明な洗面器を裏から見ているよう。
「裏多摩湖(うらたまこ)の底だよここ」
「大地底国じゃん」
その湖は水深の割に水面の色が深く色濃く、何か“裏”があるのでは、という言い伝えから名付けられた、と聞いた。
日差しが入って水は充分。農作業には困らない。
「タンパク質は?」
理絵子は肩口を指さした。ヘビがシャーッと擬音を付したくなるように口を開けて威嚇する。
「あんた食うってんじゃないよ。あんたが出入りできるってことはそこそこに動物入るでしょってこと。ここで何か食ってる?」
更に田んぼにはカエルの声が聞こえ、田んぼ沿いの流れには小魚の姿も見える。
「外へ出る理由も意味も無いか」
「ここでさぁ」
男性は集落の中心であろう、大きく普請された寺とおぼしき建物に3人を案内した。
「おお、田悟さ(たごさく、の略らしい)……あんだ、連れてきちま……へ、蛇神様かえ?」
寺の本堂、であろう、その建物の中から出てきた白髪の男性が目を見開いた。
示唆、犬神の郷で呼ばれた名を言うと時代劇の印籠状態。
すなわち無敵スキル。
「わたくしは畢星(ひつのほし)の理絵子と申します。私どもの仲間が迷い込んで恐らくはけがをしてお世話になっているかと」
果たして案内してきた男性、その白髪の男性、更には本堂にいた男女がまるでほじくられた巣のアリのごとくワラワラと出てきた。
「理絵子様だと」
「道理で犬神をご存じのはずだ」
「蛇神様とご一緒だ。天罰じゃ。祟る。祟る、控えよ」
理絵子は登与と顔を見合わせた。
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