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【理絵子の夜話】城下 -12-

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「東南海地震か」
 登与が呟いた。1944年12月7日。戦争末期の出来事で辻褄は合う。南海トラフの一種で、震源の遠い関東において顕著な被害があったと聞かぬが、多摩地域では旧震度階級で6だった地域もあったという。
 軍は結局多摩地区の地下に大本営を移設する計画を中止した。
 それ以後も、ずっとここで。
「ここにお住まいの皆さんは外へ出ることはないのですか?」
 理絵子は訊いた。400年以上、外界とコミュニケーションを絶つとか不可能と思うが。ただまぁ、彼らに電子工学ベースの21世紀社会に生きているという認識はないようだ。
 一方で、閉鎖空間だと生物学的にハプスブルク家のような問題が生じると思うが。
「食って行ける。一族皆息災だ。どこかへ行く必要があるらかね?」
「なるほど」
 ここで理絵子は背筋が寒くなる認識を受け取る。
“お前ら帰さないぞ”
 すなわち。
“新しい血脈となれ”
 とはいえ。
「それで、私どもがここへお邪魔した理由ですが、その、私どもと同じようなズロッとした格好の娘ゴを迎えに来たのですが」
 すると男性の表情がにわかに厳しくなった。
「帰る道はないし、帰さんぞ。蛇神様の施しであらっしゃるからな」
「……それさっきの蛇!」
 当麻が声を上げるが。
「お黙り!」
 娘二人は同時に声を荒げてしまった。
 驚き、そして悲しそうな当麻の顔。
「君の出る幕じゃない」
 理絵子は強く制した。当麻は目を見開き、おびえたように小さく震え、頷いた。
「よろしい。さて旦那さん、その蛇神様は私と共にあるのですが」
「なんと?」
 しゃがんで腕を下ろすとひやりとした重たいものがその腕へ登ってくる。
「蛇神様が……これはこれは……」
「そしてここは犬神の里とも繋がっていますね。出していただけないというならそちらから帰るのみです。さぁどうされますか?一緒に来た女の子を返していただけますか」
「犬神様とも……」
 男性は振り上げたクワを諦めたように下ろした。
「従いますだ。こちらでさぁ」
 男性はへりくだった態度を見せ、手を下に“どうぞこちらに”の構えを見せ、歩き出した。
 その犬神云々は縁あって理絵子は登与と訪れている。隣県の山奥に電気も通らぬ隠れ里があり、犬神の里と呼ばれている、人身御供のしきたりが残っていた。

(つづく)

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