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2024年2月

2024年2月17日 (土)

【理絵子の夜話】城下 -15-

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 ならば、気狂い石が、回転することで電磁波をぶっ放す……丸く削られた磁鉄鉱の塊、であれば説明が付く。
「気狂い石に落ちてくる水を止めることは出来ないのですか?」
「それは……」
「出来るんですね」
「へぇ」
 が、やりたくない。そのわけは。
「ほでを止めだら余所もんが入って来でまう。それに……」
「それに」
 理絵子の文字通り詰問に男性は観念したようだ。
「墓なんでさ」
「墓……」
 要するに人身御供は薬で眠らせて犬神の郷まで持ち込むが、気が付いてしまったり、要は言うこと聞かない者はそこへ歩かせて“発狂”させて死に追いやった。
「では水を止め、石を止めて下さい。犬神の郷では最早人身御供など必要ありません。そのようにわたくしが取り計らいました。そして彼女を返して下さい」
「へぇ……」
 不承不承、の意思表示であろう、男性は口をへの字にして、しかし承諾した。
「ほだが(ところで)、おなごはどうすだ?……その、おでらがそうやっとってあれだが、明日まで起ぎねで」
 そんなヒマはない。理絵子は示唆を受ける。
 出ろ。早急にここから出ろ。
 自分たちの役目は終わった。
「当麻。出番だ。知持ってけ」
 果たして理絵子は振り返りもせず彼に命じた。
「え?あ、おう」
「急げ。彼女に気付かれたら逆に良くない気がする」
 当麻がバタバタ上がり込む。ただ示唆の言うには急ぐ理由は彼女にあらず。むしろそれを口実にしろと言う。
 さて当麻は彼女を“お姫様抱っこ”しようとしたのであるが。肩と腰に腕を通してどっこいしょ。しかし。
「……えーと」
「40キロのニョタイをマンガのように抱っこできるわけねーだろ。フォークリフトが何で2トンもあるか考えてみな」
 理絵子は腕組みして指摘した。
 男衆におんぶ紐を用意してもらう。彼女の身体をゴロゴロ転がして手足を通し、彼に負ぶわせて前ヒモを締める。
「せーの」
 前から腕を引っ張りの、背後から押し上げの。
 彼はフラフラと立ち上がり、しかし程なくスイッチ入ったように雄々しく赤土を踏みしめた。

(つづく)

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2024年2月 3日 (土)

【理絵子の夜話】城下 -14-

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 犬神の郷にかかわる自分たちの関わりが、隠れ里の間で伝説化しているのは承知したが。
 祟りと来たか。
 どちらにせよ強権が使えるのは都合が良い。
「先にここに落ちた娘に会わせて下さい」
「へ、へい」
 果たして本堂奥手に畳が一枚敷かれ、仰臥させられ布団をかぶせてある。失神状態だが外傷はない。不適切な扱いを受けた痕跡もない。女性による対応が一枚噛んでいると感じる。ただ、ノートや携帯電話、測定器類は見当たらない。
「眠らせたのですか」
「へぇ」
「持ち物は」
「その……」
「祟りを与えたりしません。正直に言って下さい」
「気狂い石のところへ」
 きぐるいいし。今日び文字に起こすのも憚られるそれは、水流に打たれて高速回転する黒い石であった。
「どこに?」
「この村の果てでさ……いや、近づいたらいけん、“あーあーになってぼん”になってしまう」
 神妙になって答える男性の想起したイメージを解釈すると。
「生き物が近づくと行動がおかしくなってしまいに身体が破裂すると?」
「そうだす……わでらには何が何だがさっぱり」
「んだば、娘ゴのけったいな板から同じようなビリビリがあったから、怖くなって捨てただ」
 けったいな板、は知の携帯端末であろう。ビリビリ?
「これですか?」
 理絵子は自身の端末を取り出した。
「ああ~、それじゃそれじゃ。ああ理絵子様おねげぇだ、それをわでらに近づけんでくれまし。ビリビリする。祟らないでくだせぇ……」
「電磁波過敏症」
「なるほど」
 登与の物言いに理絵子は膝を打った。
「旦那衆。その気狂い石も近づくとビリビリを感じますか?」
「そりゃもう。ドタマがガーガーしてくるくる回るだ」
 人間の脳は生体コンピュータに他ならない。すなわち神経細胞間で電気信号をやりとりしている。従ってそこに外部から電流を流すと脳の活動に干渉できる。病気の治療に使われる他、最近では夢を読み取ったり、逆に意図的に夢を見させる研究も行われている。いわゆる霊能力も電磁波に対して鋭敏な状態に過ぎないと説明する向きもある。
 例えば神社や古代祭祀遺構は断層上に並んでいるのが知られている。これは、断層付近は岩同士の摩擦で生じる電磁波が強まる地帯だからだ、という説もある。

(つづく)

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