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【理絵子の夜話】城下 -14-

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 犬神の郷にかかわる自分たちの関わりが、隠れ里の間で伝説化しているのは承知したが。
 祟りと来たか。
 どちらにせよ強権が使えるのは都合が良い。
「先にここに落ちた娘に会わせて下さい」
「へ、へい」
 果たして本堂奥手に畳が一枚敷かれ、仰臥させられ布団をかぶせてある。失神状態だが外傷はない。不適切な扱いを受けた痕跡もない。女性による対応が一枚噛んでいると感じる。ただ、ノートや携帯電話、測定器類は見当たらない。
「眠らせたのですか」
「へぇ」
「持ち物は」
「その……」
「祟りを与えたりしません。正直に言って下さい」
「気狂い石のところへ」
 きぐるいいし。今日び文字に起こすのも憚られるそれは、水流に打たれて高速回転する黒い石であった。
「どこに?」
「この村の果てでさ……いや、近づいたらいけん、“あーあーになってぼん”になってしまう」
 神妙になって答える男性の想起したイメージを解釈すると。
「生き物が近づくと行動がおかしくなってしまいに身体が破裂すると?」
「そうだす……わでらには何が何だがさっぱり」
「んだば、娘ゴのけったいな板から同じようなビリビリがあったから、怖くなって捨てただ」
 けったいな板、は知の携帯端末であろう。ビリビリ?
「これですか?」
 理絵子は自身の端末を取り出した。
「ああ~、それじゃそれじゃ。ああ理絵子様おねげぇだ、それをわでらに近づけんでくれまし。ビリビリする。祟らないでくだせぇ……」
「電磁波過敏症」
「なるほど」
 登与の物言いに理絵子は膝を打った。
「旦那衆。その気狂い石も近づくとビリビリを感じますか?」
「そりゃもう。ドタマがガーガーしてくるくる回るだ」
 人間の脳は生体コンピュータに他ならない。すなわち神経細胞間で電気信号をやりとりしている。従ってそこに外部から電流を流すと脳の活動に干渉できる。病気の治療に使われる他、最近では夢を読み取ったり、逆に意図的に夢を見させる研究も行われている。いわゆる霊能力も電磁波に対して鋭敏な状態に過ぎないと説明する向きもある。
 例えば神社や古代祭祀遺構は断層上に並んでいるのが知られている。これは、断層付近は岩同士の摩擦で生じる電磁波が強まる地帯だからだ、という説もある。

(つづく)

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