【理絵子の夜話】城下 -18-
「知!」
「知ちゃん!」
彼女らの所作は“キャッチャーフライを捕らえに行ったキャッチャー”と書けば最も近い。要は滑り込みながら当麻の背中が地面に落ちないようにした。
が、理絵子の背中のヘビが一瞬早い。その長い身を駆使して長坂知の頭にターバンの如くクルクルと巻き付き、地面への激突から保護。
ただ、「動物の肉体が地面に衝突する音」は発生した。
「くっさあああい!」(臭い)
絶叫を上げたのは長坂知である。時系列的には当麻が転倒し、しかし長坂知は彼の背中で蛇が巻き付いていたので頭を打つなどは回避。ただしヘビの方が身体に掛かったストレスの反動で“臭腺”から臭い物質を放出。これが気付け薬のように作用して長坂知が意識を回復。
可能な範囲で手足を動かしているのであろう。礫や小石がガラガラこぼれる音が暗闇に聞こえる。
「え、ちょ、なに、動けない。暗い。どうなってるの?」
「落ち着け知」
これは当麻。彼は背中の長坂知に自分の体重を掛けるまいとしてどうにかうつ伏せになっている。
「どうやって!」
長坂は金切り声に近い。暗闇で束縛されていればパニックにもなろうというもの。
「知ちゃん落ち着いて。私たちは閉じ込められました」
あ、しまった。“見えて”いるのは自分だけだ。
「黒野さんまで!」
「状況を説明します。あなたが蛇にびっくりして迷い込んだのは、築城当時からの道のうち、荒廃して忘れられた道の一つです。その中にここが修験道の道場として行基菩薩によって開かれたものに繋がっていて、私たちはそこであなたを見つけ、当麻君があなたを負ぶって戻る途中、地震に遭遇して土砂崩れに遭って生き埋めになりました」
理絵子は説明しながら悲惨な物言いになっていることに気付いた。
が、本当に悲惨なことになるという予感はない。いわゆる予知能力は持たないが因果律に従うものは判る。
背後で動くもの。アオダイショウ。
背後の積み上がった岩やがれきの間をその身を駆使して登って行く。すなわちこの向こうに到達できる空間がある。
パラパラと小石が崩れ、彼、が隙間に身をねじ込ませようとしているのが判る。つまり、
このがれきの山は崩せる。
「当麻、知ちゃん下ろして手伝って」
理絵子はスマホ内蔵のLEDランプを点した。
ヘビが影絵の要領で岩の崖に大写し。
「……!」
大蛇の影に長坂知は再び失神。
(次回・最終回)
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