【理絵子の夜話】城下 -16-
「行けそうだ」
「さすが男の子」
理絵子は言い、彼の眼差しが変化していることに気がつく。男性本能の発露という奴だ。ジェンダーフリー思想?バカか。
彼は軽く笑みを見せ。
「変なこと言っていいか。女の子の重さって豪華だな」
使命を得た男の感想であろう。理絵子はニヤッと笑って返した。
「女の価値って奴だよ。さておき、旦那方、彼女を丁重に扱って戴きありがとうございました。私たちはこれで」
「ああ理絵子様どうかどうかここのことはご内密に」
「言いませんよ」
来た道を戻るのは苦痛と考え、集落を西の方へ歩き出す。道ばたの水流は次第にその速度を増し、やがて前方より滝の音。
右手にねじハンドル式の木で出来た水門がある。滝の下にその気狂い石があり、この水門で水流を制御する。
「止めますだ」
T字型のハンドルを回すのだが、ひどく重そうだ。めったに使わないのであろう。
理絵子は手を貸した。念動使えるわけじゃないが、それでスムーズに動き出すという示唆がある。理絵子が触れただけで自ら意思を持ったようにくるくる動き始める。
「おお、おお……」
ああ、と理絵子は納得する。今の所作で自分は法力使い……イコール超能力者だという認識がこの男性に宿った。
万が一にも裏切る逆襲の類いを働くと天罰。
ギイギイと音を立てて水門が閉じられ、滝の音は聞こえなくなった。
村落の末端に達する。水門と滝の間の短い流れを横切る必要があり、その先は崖をうがったトンネルになっている。水門を開いておけばそのトンネルは隠されている。
「この隧道は、行基(ぎょうき)様ですか」
理絵子は男性を見て言った。行基。行基菩薩とも。密教僧であり、この山を修行地として開いた祖であり、あちこちにこの手のトンネルを手堀りして信仰の道を作ったという。
「へぇ、へぇ。さようでございます……理絵子様は何でもお見通しだ……」
「ここを通って行けばいいですね」
「へぇ」
「では、この先我々だけで行きます。ありがとうございました」
「いえいえそっだら……祟らねぇで下せえ、祟らねぇで下せぇ」
両手を合わせて伏し拝む。さてここで理絵子は肩乗りヘビと化した蛇神様を下ろそうとしたのだが。
「戻っていいのよ?」
「送り狼の代わりのつもりみたい」
「でもあんたここの守り神じゃない……え」
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