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【理絵子の夜話】城下 -19・終-

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「面倒が無くていい」
「今のうちに」
 おんぶ紐をほどき、長坂知を横たえ、3人で力を合わせて取り除ける岩などどけると。
 壁。明らかに人工の。
「コンクリ?」
「みたいだね」
 触るとジメジメして柔らかい感じ。試しに石でガツンと殴ると容易に削れた。
「“アルカトラズからの脱出”って映画を思い出したよ」
 登与が言った。著名な脱獄映画で、劣化して粘土のようになったコンクリートを少しずつ削って穴を掘る。
 それだ。理絵子は回答を見いだしたと直感した。
「当麻。このコンクリは劣化してる。力任せにぶち破れ」
「判った!」
 石器人よろしく岩で殴り、削って薄くなり、ヒビが入ったところを蹴る。
 穴が開き、目を射る外光。
 刹那あり、隧道内から転げ出た岩塊が路面に落ちる。多湿な空間にあったせいか脆くなっていたようで、跳ねるのではなく潰れてしまい、砂を思わせる鈍く響きの少ない音がした。が、その音の伝搬の仕方から大きな空間に繋がったと判じる。
 蹴り広げてスマートホンのライトで照らす。道路トンネルの中に出たと考えれば合点が行く。穴開いた位置は、トンネル路面上からは胸の高さくらいであろうか。先に当麻に降りてもらい、長坂知をどうやって下ろそうかと思案している途中で彼女は目を覚ました。スマホ内蔵の歩数計と方角から、相次ぐ土砂災害で遂に遺棄された旧街道のトンネル内と判断する。
「旧街道の入口って埋まってるんじゃ?」
「キノコ栽培に使ってたはず」
 4人は、一匹を伴い、全身赤土にまみれつつ生還した。

「行基道の再発見と甌穴(おうけつ)中の球形磁鉄鉱石回転による電磁波発振現象」

 この探検行は地元郷土史研究家の目にとまり、市内レベルではあるが論文書いて発表するに至るおおごとに発展した。
「……このように、超能力という言葉を軽々に持ち出すことは避けるべきではありますが、いわゆる霊感が電磁波過敏症を意味するものであれば、この回転する磁鉄鉱で生成された電磁波に導かれて霊的な道場として開発が行われ、山頂寺院に伝わる行基による開山の背景までも同時に説明することが出来るほか、戦国時代に悲惨な殲滅戦が行われたとされながら多くの子女が逃げ延びたと考えられること、赤く染まったのは血ではなく、その際関東ロームの赤土を大量に流し込んだと考えれば説明できるなど、仮説や噂の類いに論拠を与えます。残念ながら姿を見せたのはわずかで、今般の地震により再び土中に没しましたが、幸いにもトンネル内に場所を比定出来ていますので、今後の本格的な調査発掘に後を託したいと思います。ありがとうございました」

城下・終

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