【理絵子の夜話】空き教室の理由 -002-
教頭に使用許可をもらいに行くとかで、理絵子は廊下で少し待たされる。夏以降伸ばしている黒髪には夏服セーラーのスカーフに合わせた青いりぼん。1年生であろう、幼い顔立ちの詰め襟少年が二人、行き過ぎてから自分を振り返ってチラチラ見つつ、ひそひそ話しているのが判る(見えてないつもりかい少年)。理絵子とすれ違う男子生徒で、彼女に目を向けない男子生徒はまずいない。飾り気は無いが、しかしどこか“品”とか“貴”といった言葉を想起させる彼女は、思春期にある男子たちを自動的に振り向かせる、と書けるか。
「ごめんなさいね」
担任がカギをちゃらちゃら言わせて戻ってくる。
開き戸の鍵穴に差し込んで回転し、引き戸のドアをカラカラ開く。値付けの鈴があちこちぶつかってちりんちりん。中は黒革張りの長いすが向かい合わせに配置され、大ぶりのテーブルを挟んでいる。色あせ古びた応接セット、と書けば手っ取り早い。夕日がもろに入っており、室内は真っ赤。
10月初旬であり、西陽にあぶられていた室内はかなり暑いと書いた方が適切で、応接セットはこの先も使われる回数の割に劣化が進行して行くであろうと言える。担任は率先して自ら窓のカギをかちゃんと回して開く。
外からの音が入るが、部活動が終わった直後で、校庭は静か。呼び合う友達同士の声が幾つか。
担任は廊下のドアを閉めて施錠し、更に職員室へ通ずるドアにも内側からカギをかけると、抱えていた書類をテーブルの上に下ろした。
その書類に問題がある。理絵子は直感した。
「黒野さん……あのね」
ためらいがちな担任。
「今からあなたに見せるものを、あなたは信じないかも知れない。でもあなたに大いに関係があることだし、あなた物知りだからひょっとして、とも思って、あなたに相談します」
担任は言い、書類束の中から写真屋の袋を取り出した。
「これは文化祭の時に撮ったものなんだけど」
「あ、はい」
理絵子は頷いて写真を袋から出した。
今回、理絵子のクラス2年4組は“面倒くさい”それだけの理由で、クラスとしての出し物を合唱にした。その時、担任が体育館のステージ下から撮りまくった写真だ。できあがってきたのだ。
取り出した映像に理絵子はギョッとした。
首がない。
しかも自分のものだけ。
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