【理絵子の夜話】空き教室の理由 -001-
プロローグ
“怪談”を持つ学校は少なくないようだ。
しかも歴史の長い学校ほど、確実と言って良いほど怪談を持っている。
ただ、詳しく調べると、悲しい事件を元に尾ひれが付いただけだったり、誰かの作り話が伝説化しただけだったりと、虚構であることが殆どである。
要は遊びの一種である。それゆえ、修学旅行や合宿で夜話のネタになるだけで、何か起こることはない。生徒間で少しずつ内容が変わりながら伝わって行き、毎年、一人二人教員に尋ねる。教員はその問いにまたかと微笑ましく答える、というパターンが多い。
普通は。
1
文化祭が終わってより3日。
金曜の午後、学級委員を集めての“文化祭反省会”から出てきた理絵子を、担任が呼び止めた。
「黒野さん、ちょっと」
大事そうに両腕で書類を抱え、困惑の表情、頼る表情。
この50代の女性教諭は、理絵子の母親よりも年上である。いかにも経験豊富という風で、ゆえあってかクラスでトラブルが生じることはまずない。その担任のこの表情。
よほどのことに違いない。
「はい?」
「ちょっと、時間もらえないかしら」
「今ですか?」
担任が頷く。全校下校が5時半であるが、それに合わせて反省会はお開きになっている。
夕映えに赤く染まる困った表情。
「塾か何かあるの?」
その質問は普通なら『用事があるならいいのよ』とでもなるはずであろう。すなわち、よほどのことがない限り理絵子に聞いてもらいたい、という意思の表れ。
塾は7時から。
「いいですよ」
理絵子は答えた。
「じゃぁ……」
担任が歩き出し、階段を1フロア下りて2階。
職員室横“生徒相談室”。
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